花を贈る。   四








多くの忍、大名と挨拶をかわして、一息つく。
少し休めば良い、という言葉とともにどこかへ行ったネジを見送りながら、一人会場の隅の席へつく。
BIP席であるそこにはほとんど人はおらず、ここに座っている限り、気安く声をかけてくるやからも居ない。
もうすぐカンクロウたちが到着する。そうしたら、もう少し落ち着くはずだ、と思う。
そんなに感じたことがなかったが、この里で砂忍は今自分一人きりなのだと、ひどく心もとない気分になって仕方なかった。いつもの任務のときだって、そうであるのに。

「 あいつがいたから…か 」

その考えに、少し笑う。
自分の居場所として思っていたのか、はたまた単なる依存なのか。
独り言は小さく雑音に飲み込まれていった。



シカマルは言葉どおりに場内の警備を一通り確認して、また会場に戻ってきた。もちろん、いのはその間はなれることなく付き添っていたが、砂の客人が到着したとの知らせを受けて、シカマルは出迎えに向かった。
それはいのの担当部署ではない。いのは仕方なしに一人で会場で待つこととなった。

苛々していた。珍しくシカマルが、自分の感情をもてあましていた。
それに気がついてしまって、どうしようもなく切なくなった。どうしたって、私にはシカマルをそこまで落ち着かなくさせるほどの、存在感はなかった。
特別ではあるけれど、特別じゃない、私の幼馴染というポジション。
他の人とは違うけれど、でも、 一人だけ じゃない。

それに気づいてしまったから、もうだめかな、って思った。

「 …うそつき 」


 恋とかめんどくせーんだよ


そういっていた昔の幼馴染に、つぶやいた。





「 ご苦労じゃん、奈良シカマル中忍さん。 」

午後の部が始まる少し前、カンクロウと砂の上役の少し中年層の男が二人、到着した。
上役に対してあらたまった挨拶をしたあと、長い道のりご苦労さん、とカンクロウに声をかけた。

「 テマリはどうしてるじゃん 」

「 挨拶まわりで疲れてるみたいだぜ。席で休んでる。 」

「 ふぅん…で、お前はなんでテマリについてないじゃん 」

「 …俺じゃ、役不足なんだと。 」

少しからかうようなカンクロウの言葉に、思ったよりも真剣な声で答えてしまい、シカマルは少し焦った。
カンクロウは一瞬面食らったような顔をしてから、ふうん、とだけ意味深に答える。
深く追求されなかったことには少し安堵したが、それでも何か不安の残る反応の仕方だった。

「 じゃあ、テマリは一人か 」

「 いや、ネジがついてるぜ? 」

「 いいや、一人、じゃん。 」

シカマルにいうでもなく、意味を持っているようでもなく、単に独り言のようにも聞こえたカンクロウのつぶやきに、聡いはずのシカマルも少し首をかしげた。
それをみて、カンクロウは面白そうに笑う。

「 頭キレる奴って、変な部分で鈍いじゃん。 」

途端、上機嫌で前へ進みだしたカンクロウを何なのだ、と思いながらシカマルは後を追う。

着替えが済んで、会場まで案内する。五代目に挨拶をしていると、テマリがするすると寄って来た。
すこしばかり目があうが、やはりそらされてしまう。
俺の任務は、護衛。
そう言い聞かせて邪魔にならないよう一歩下がる。上役同士や五代目との話が一区切りついたところで、ようやっと食事の席につくようだった。
客人を揃えたテーブルの脇に、また護衛として立つ。
上役や上忍ばかりのこの会に、中忍の護衛など何の役があろうか、そう思いながら進む食事風景は、まるで貴族の社交場のようで、ひどく距離を感じた。
その中で、違和感のようにテマリだけが、ポツリと自分の中で浮いていた。テーブルの中の会話にも臆することなく紛れ、まるで上役の一員、貴族であるかのように、自然に彼らの中に入っているのに、
ひとつの違和感として、シカマルの目にはテマリだけが、ポツリと映っていた。






「 シカマル、ちょっと 」

食事会が始まってしばらく。挨拶も終り、食事に舌鼓を打ち始めた頃、ふいに小声でいのに呼ばれた。
何だよ、任務中だろ。と前を向きなおすと、キバに変わってもらったから、と付け足す。

「 ちょっと、きて 」

さっきよりも強い意志のこもった声に少し押されて周囲を見回す。とりたてて変わったところもないし、隣の忍にちょっと席をはずすと伝えていのの後を追った。めんどくせーな、と口癖を吐きながら。




いのと一緒に部屋を出て行くシカマルを見ながら、テマリはメインの食事を口へ運ぶ。
甘みと苦味と、まろやかな味が広がるはずなのに、
「どうだい」「これなんかも…」周囲からかかる声や、それに返す自分の声も聞こえるような、フィルター越しのような。どこかテーブルにとりのこされた自分を客観的にみているようだった。

寂しい。

まさか今こんなところで気がつくなんて
どうしようもなかった。気がついてしまったらどんどんその気持ちは増してしまって。

「 テマリ、平気じゃん? 」

カンクロウがかけてくれた声に生返事しながら、カンクロウも隣にいるじゃないか、と思いなおす。
けれど心のどこかがぽっかりと空いてしまったようだった。そしてその意味のわからない感覚に、無性に苛立ちを感じた。

わからないわからないわからない

 けど

会いたい―?


…あいたい、よ











なんだというのだろう。こんな任務中に。
いつも振り回されてばかりだが、いのだって立派な忍だ。任務と私事をわきまえることはきちんとする。
むしろそういうところにおいては真面目なやつで、だらけていれば叱られるのはいつも自分だ。

( いつも、か )

最近はほとんどなかった。とふと思う。
それでも前を行くいのが遠くなったとか、そんな風に思うことはなかった。周りがいうように綺麗にはなったのかもしれないが、それはそれであって。

「 あんたには、テマリさんは似合わないわよ 」

エントランスを少し出た。広場の夜の静けさの中でひときわ響いたイノの声。
さっき聞いた、と口を開こうとすれば、その口を人差し指一本で止められる。

「 私とあんたは、セットだと思ってたんだけどなぁ 」

俺にいうような、自分に言うような声で言ったいのの顔は、女だった。知らない女の顔だと、シカマルは認識してしまった。瞬間、語尾がふるえていたのに比例して、いのの顔がくしゃりとゆがむ。


「 私ね、テマリさんにひどいこと言った。 」


ピクリと反応するシカマルをみて、いのは少しばかり切なく、でもなんだか嬉しくなる。
自分でもわかってたんだ。ただ、自分を納得させるのに時間がかかっただけ。
彼の想いも、自分も。

シカマルは口を開かない。だけどその目が無言で続きを促していた。
いのはくるりと回転して、できるだけ”いつもの”自分を保ったまま声をだす。それでもきっと、かすかに震えた声は長年の付き合いで隠しきれるものではなくて、シカマルにはばれているんだろうなと思いながら。


「 悪いのはテマリさんじゃないのに、八つ当たりした。 」 


隠さないよ。もう、嘘はやめた。


「 シカマル―私は、 」


続きはいのに似合わないくらい、風に消え入るような 小さな声だった。






 ―アンタが好きよ
















 




( 隠れてばかりじゃ、みつけてもらえない )( 私をみつけて )

2008.08.05