参2



「 同行者、か 」

火影様は顎に手をあてて、ふむ、といってから「奈良シカマルではダメか?」という予想どおりの言葉をだしてきた。シズネさんに向かって言った言葉に、いのは恐る恐る意見する。

「 …ほ、火影様。シカマルは中忍ですし、今回テマリさんは風影代行ですよ? 」

「 それもそうだな。中忍では失礼にあたるか。 」

なにせ、今回はいつもの「外交官の上忍」ではなく、「風影の姉」としての扱いをせねばならん。それ相応の相手が必要だな。
そう一人でうなづいて、火影は「よし、こちらで手配して明日は迎えにやろう。」と笑った。その笑顔に、少しほっとして、笑顔でうなづきつつ、悪いことをしたような罪悪感と後ろめたさがいのの中に押し寄せていた。

( でも、本当のことよ )

別におかしなところは何もない。そう自分を正当化して、火影室を後にした。これで明日、私と同じに会に出席するシカマルの隣は空いているはずだ。
誰に、ともなく見られていないか確認しながら、誰にも聞かれていませんように、と祈ったいのは自分を少し惨めだと思った。





*






翌日。
夕方からの会に備えて、テマリは支度を済ませた。
里の者が到着するのは夜だから、それまでは一人で火影や上役たちへの挨拶周りをしよう。

気の重くなる空気を想像しながら、火影が用意してくれた衣装に袖を通す。黒いシルクのドレス。深いスリットや隠された胸元の変わりにばっくりとあいた背中の露出は、彼女の趣味によるものなのか。
全身鏡にうつしながら、背中を見る。…これではせっかくのドレスが台無しだ。
そう思って、ドレスと一緒に入っていた薄紫のショールを広めに巻いて隠す。高めのヒールが慣れないが、致し方ない。装飾品は極力少なく、アンクレットとブレスをつけ、ピアス穴は開けていないから、髪をトップでゆるくひとつにまとめ、髪飾りを横に垂らす。
ピアス、というものでとっさに奈良と山中の、昔から形が変わってもおそろいをつけているピアスを思い出してしまった。どこまで、

( 私の思考にくらいついているんだ )

悲しいくらいに、奴の存在が大きくなっていた。




「 あ… 」
「 来たか。 」

カチャリ、と扉をあけると見知った顔とまでは行かないが、何度か目にかかったことがある男が立っていた。

日向ネジ。

木の葉の日向家といえば、忍で知らないものはいないだろうほど有名で、その中でも天才と呼ばれた男。

( 確かに )

扉の前で油断していたとはいえ、気配を察知しきることはできなかった。感じるそのチャクラの質は、他人を寄せ付けないようなぴりぴりとしたもの。
見慣れぬその白い目に、少しばかり落ち着かない。いつもは漆黒の瞳が見えるから。

「 何故お前が? 」
「 今回は風影様の代行任務だろう。中忍が迎えでは失礼にあたる。 」

そうか、とネジの姿を改めてみて、納得する。ネジは黒いスーツに身を包んでいて、長い髪は丁寧にまとめてあった。私に合わせているのかはわからないが、薄紫のハンカチを胸ポケットにいれて、黒いネクタイで。それは端麗な彼に良く似合っていた。

「 では、よろしく頼む。 」
「 失礼する。 」

す、とネジの手が腰よりも少し上に触れた。すっと、押すように、ほぼ素肌の背に触れても嫌味でないほど、それは自然なエスコートで。少し驚く。軽く前に出された肘に、触れる程度に手を添える。

「 なんだか、おかしいな 」
「 同感だ。 」

今更、改めてネジとこのような公式の挨拶の行為をとるなんて。
ふっと笑った顔が思ったよりも柔らかくて少し驚いたが、それはお互い様だったようで、ネジもすぐに目を開く。それから、また少しだけ今度は社交的な笑みを浮かべて、私たちは宿を後にした。




*




会場の準備はほとんど完璧だった。

後は警備で各地に配置している忍を確認して、シカマルはいのと行動を共にしながら会場内の監視をする。夕方から始まる挨拶が中心の前半に出て、途中でくるはずのカンクロウや他の砂忍を迎えに行き、夜の食事会を終えれば、それで終了。
スケジュールを確認しながら、ため息をついて、シカマルは着慣れない正装の襟元を緩めた。

「 だめよー、シカマル。ちゃんとしなさいよー! 」

タートルネックにボリュームのあるスカートドレスをはいたいのが、即座にシカマルの襟を正す。それになされるがままにしながら、めんどくせーとつぶやいてあたりを見回した。

( …まだ、きてないか。 )

今日の護衛の対象は、もちろん風影代行として砂忍で一人、前半部に出席するテマリだ。
主賓なのだから、来ればそれなりに場が騒がしくなるだろう、と気を抜いた瞬間、

「 やぁ、よくきたな。 」

五代目の声とともに、周りが少しざわついた。それは珍しいものをみたような感嘆の声にも聞こえた。

「 お呼びにあずかり光栄です。 」

軽く頭を下げた金髪が再び見えた瞬間、ぱちり、と翡翠の目が合った。
すぐに目をそらされたが、目が合った、どう、よりも、テマリの姿があまりに見慣れない状態になっていたので、シカマルは思わず固まる。
そんなシカマルの様子をみ、いのは襟を直す手を止めて、眉間に皺をよせた。

「 シカマルッ!聞いてる?! 」

呆けた彼に腹が立って、いのはシカマルの顔を両手ではさんだ。いて、なんだよ、というシカマルの体を、預けている壁から引き剥がしてテマリさんに背を向けさせる。
 シカマルの、体ごしにテマリさんと目が合った。それが、私に悪戯心を、優越感を起こさせる。


山中の声と、その名前が聞こえて、再びそちらを向いてしまった時だった。
山中が奈良の腕に絡みつくように寄り添って、奥へと入っていった。それに引きずられるようについていく奈良をみながら、ズキン、と胸がなるのがわかった。

テマリが頭を少しさげると、ネジがエスコートのためにのせていた掌の上のテマリの手を、少し握った。
それに驚いてテマリがネジをみると、ぐい、とひかれて腰を、さっきよりもしっかりと支えられた。
その行為に、火影はすこし口笛をふいて、まわりの女の人からは少しきゃぁ、という黄色い声があがった。


「 日向、 」

「 火影様、テマリ殿は先に顔見せがありますので、後ほどゆっくりと 」

「 うむ、行って来い。ネジ頼むぞ。 」

「 はい 」


小声で話しかけたテマリには答えず、その場をさらりと流してネジはテマリの背を押す。それにつれられて慣れないヒールを鳴らしながら、テマリは慌ててついていった。


「 …気をつかわせたか? 」
「 何のことだ? 」


テマリの問いかけにも、振り向くことはせず、歩調をゆるめてネジはさらりと言った。腰の手は嫌味でない程度に遠慮されていて、ひかれた手はまたのせるだけに戻っている。
そんな紳士っぷりに、思わず笑みがこぼれる。

「 テンテンに、怒られるな。 」
「 あいつは今長期任務中だ。 」
「 お、それは寂しいな。 」

賓客として道をあけていただき、人の視線をあびながら通してもらいながら、くすくすと小声で会話をする。このような場で私語とは、なんとも不真面目なようだが、上忍どうしの落ち着いた雰囲気を誰もとがめることはないだろう。
薄明かりの中で並んで歩く二人は、不思議とさまになっていた。


「 やだー、テマリさんとネジすっごいお似合い・・・ 」


サクラの声に、しっかりつかんでいたシカマルの腕が、ピクリと反応するのがわかった。それが不安で、ぎゅ、っと握ると、シカマルが不思議そうな顔をして私をみた。
やっと、見た。


「 …テマリさんは、アンタには合わないわよ。 」


思わず漏れた言葉に、口をふさぎたくなった。シカマルが驚いたような顔をしてから、すっと腕をひく。
しまった、と焦ったけど、負けじと肘をつかんだ。今度は逃げなかったが、歩き始めたシカマルに何処に行くの、と問えば「警備の確認だよ。めんどくせーけどな」と、言った。
歩く速度は、シカマルに似合わないほど、その場から逃げるような早足だった。


 ネジにだって、合わねぇよ。


自分に合わない、というのに否定はしない。自身だって思っていることだ。
それでも、着飾ったいつもとはあまりにかけ離れた姿のテマリに「砂里の姫」という身分を思い出さずにいられなくて、シカマルは何となくむしゃくしゃした。

















 




( 柄じゃない。けど、あの姫にはいらない、王子なんて。 )

2008.06.02