花を贈る。   弐












なんてひどい女なんだろう。

そう思った。
なんてひどいことを言うんだろう。でも、それでも止められなかった。
離れていくシカマルを引き止める術がなくて、引き止められないなら、相手に退いてもらうしかなくて。

シカマルが離れていくのはシカマルの心でしかないのに、
シカマルが離れていくのが、テマリさんのせいだと思うことでしか自分を保てなかった。

悪いのは、テマリさんなんかじゃないのに。
わかってても、私の中で、テマリさんはどんどん悪者になっていく。



一昨日くらいのことだった。


私は祝いの酒席での警備兼、花添えとして参加することになっていて、
その打ち合わせで資料室に向かっていた。
慣れない他里との合同任務だけど、シカマルやチョージも一緒だったからなんとかなるか、って思った。本当は、シカマルにはこれ以上砂里との任務を受け持って欲しくなかったのだけど。

昔からずっと一緒にいた。
何度噂されても笑って流すことにも慣れて、いつかは壊れるかもしれなくても、そんなにすぐにその崩壊がくるとは思ってなくて、この心地よい「幼馴染」という関係が壊れる時は、私が一番に抜けるか、…シカマルと、私がくっつくときだって自惚れてた。

シカマルが他の人に興味をもつなんて思ってなかったから。
幼馴染っていうポジションは、誰より有利だったから。


ほとんど資料室の目の前まで来て、まだ少し時間があるから、お手洗いにでも行こうと思った。そしたら、同期の女の子たちの声が聞こえてきて。

「奈良さんっていのと付き合ってるの?」
「え、なんか砂の人らしいよ」
「うそ、いの盗られたの?!」
「なんかね―…」

くるりと踵を返したのは言うまでもない。なんて残酷なんだろう。
力を付けてきて、将来は火影補佐官とまで言われるようになったシカマルの周囲の話は最近そんなものばかりだった。

盗られた、って何よ。

盗られてなんかないわよ


最初から私のものじゃないのだから。

そうわかっていても、自分の中に黒い感情がうねっていた。

あの人さえ現れなければ、
あの人にさえ出会わなければ
あの人が来なければ
あの人が

どうして、私じゃだめなの―
私がダメなんじゃない、あの人が居るからなんだ。

あの人がいなけりゃ、きっと私を見てくれる。

そう、思ってしまった。そしたら止まらなかった。
あふれ出してしまった感情を、そのままにぶつけてしまった。






*






翌日はよく晴れていた。しかし、これだけいい天気だが、ほのかに雨の香りがする。午後にはきっとふりだすだろう。そう思いながら、テマリはぼんやりと窓を眺めた。

昨日の、山中の姿が脳裏に走る。

あまりにも小さな肩は、小刻みに震えていて、一生懸命覆った手の隙間から、
ぽたぽたと、おさえきれない涙があふれていた。
ごめんなさい、忘れてくださいと笑って去ったあの後姿に、何も言うことができなくて、足元の明日の会用の盛装服が異様に重く感じた。

明日の会は、祝いの酒席だ。
木の葉と砂の同盟の、5周期を祝うもの。


祝いの席としては砂よりも断然木の葉のほうが適地だ。だからといって、風影が里を容易にはなれるわけにもいかず、現在進んでいる任務の中途報告も待っているため、実姉である私が風影代行として参加することとなった。
普段外交を担当している私ははやく来て手続きや支度を手伝っているが、他の任務についている弟も明日の夜には到着する予定だ。他にも、上官が二名ほど。

ふと時計をみると、もう今日の仕事にむけて自身の支度をすませねばならない時間だった。
昨晩は考えがまとまらなくてよく眠れなかったせいか頭がくらくらする。脳の後頭部あたりに響く妙な空虚感が少し貧血気味なのだと知らせた。

今日の任務は明日の最終確認のみだ。
火影に盛装服の礼をいって、確認をすませたらすぐに宿へ戻ろう。

そう思っていつもの忍服に手を伸ばす。たびたび新しいものに変えているとはいえ、擦り切れた裾がなんともみっともなかった。昨日会った山中はいつでもきれいな服を着ていて、ほのかに花の香りがしていた。

(居場所、か)

深くは考えないようにしていた。でもきっと、彼女のいう居場所というのは

「 おーい、まだッスか 」

窓の真下から間の抜けた声がした。めんどくさがりのくせに、意外と迎えの時間などには正確な方で、2〜3分の遅れでいつもやってくる。

あいつの、隣。


( とれてなど、いないのに )

浅く笑って、「すぐ行く」と返事をした。



















2008.04.19  弐2