花を贈る。 壱
「 は? 」
キミに おまえに アンタに あなたに
「 別に、嫌ならいい。 」
まさかテマリの口からそんな言葉がでてくるとは少しも思いもしていなくて、
少なからず自分も似たようなことを口に出すか出さないか、迷っていたシカマルは、思わず拍子抜けした声をあげた。
「 誰も、そうは 言ってねぇ 」
言葉がわざとらしく途切れたのを感じ取ったのか、テマリはシカマルのその言葉にも、振り向かなかった。
それどころかわずかにはやくなった歩く速さに、若干の焦りを覚えてシカマルは後を追う。
一緒に行かないか?
頭の中で、先ほどのテマリの言葉をリピートして確認する。
見当違いな言葉を吐き出さない為に、内容をしっかり噛み砕く。
一緒に、というのは俺と、こいつと、ということだ。
そして行く、のは明後日行われる木の葉と砂、合同の祝いの酒席のこと、だよな。
確認していくほど、さっきの言葉が薄れていくように、信じられなかった。
そうこうしているうちに宿についてしまい、テマリはさっさと手続きをすませて宿に入っていく。
シカマルが声をかけると、宿泊者以外入れない領域を超えてから、やっとテマリはふりかえった。
「 おやすみ 」
それだけいって、また前へと進んでいく。
消えかけているテマリの背中に、静かに「おう」というのが精一杯だった。
ここでごたごたすんのもめんどくせーし、明日、また俺から誘えばいい。
そう思ってシカマルは踵を返した。
そのチャンスがないとは思わず。
ひとつ小さなため息をついてから、テマリは二階の宿泊している部屋へと向かう。
嫌がっていた、というよりは驚いていた、という反応だった。だから別にそんなに気にすることはない。
ただそれ以上追求するのが恥ずかしかった。なんとなく。だから話を終らせた。
(明日また、機会があったら言えばいい。)
無理なら一人でいくさ。
そう思いながら顔をあげると、部屋の前に長い金髪、というのか
クリーム色というのか、とにかく美しいと思う髪をもつ少女がみえた。
(あれは、)
山中、いの。
シカマルのスリーマンセルで一緒だった少女だ。
コレだけ長い間通っていれば、情報は大分増えている。何度か言葉も交わしたことがある。
シカマルの幼馴染、火影様に会う時によくあう、サクラという桃色の髪の少女の親友のような、ライバル。
花屋の娘で、気丈で明るく、女っぽくて可愛い。少し口うるさいが、人を思いやって泣けるいい子だ。
それだけ情報をさぐってから、自分の宿室の前にいるという理由を考えてみる。
が、やはり思い当たる理由は特になく、彼女との共通点といえば、奈良シカマル。奴しかいない。
そう結論づいたとき、ちょうど山中がこちらにきづいて、いつもと違う、すこしぎこちなさげな笑顔で笑った。
その目元が少し赤くなっているのに気づいて、言葉を飲み込んでしまう。
「 突然、ごめんなさい。テマリさん 」
「 …いや、入るか? 」
部屋の鍵を開けながら、山中が静かに首をふるのがわかった。
「 火影様から、明後日用の荷物を預かっててお届けにきたんです。 」
そういえば、足元には大きめの箱があった。火影様が風影代行として参加するのだからそれなりに華やかな装いをしてくれ、と言っていたのを思い出す。わざわざ用意してくれたのか、申し訳ない。明日お礼に行こう。と思って、山中をみる。
「 …大丈夫か? 」
あまりにも、辛そうだったのだ。
こういうときに私はどういった反応をしていいのかわからない。知らぬフリをするほうがいいのかもしれないが、そんなに器用な術は心得ていない。
思ったままに心中を表すと、山中はくしゃりと顔をゆがめた。
「 こんなこと、いうの間違ってるってわかってるんです… 」
顔を覆って、少しずつ声をしゃくりあげながら言葉をつむぐのをみて、ああ泣いているんだな、と思った。
そしてこの任を受けたのは私と二人で会いたい理由があったからなのだ。
宿内でしか、シカマルの同行なしで私が行動していることはほとんどないから。
「 でも、もう恥ずかしいとか、いってられなくて… 」
私、嫌な子なんです。そう小声でいう山中があまりにも小さい幼女のようにみえて、
しかし姿に反して内容はぐろぐろとした、「女」のものであるのだと、とっさに認識してしまった。
「 お願い、テマリさん 」
かすれそうなほどに、小さくて高い山中の声が、痛いほど胸に響いた。
―私の居場所をとらないで
恥しいなんて云ってられない
( どうしようもないの、感情の悲鳴は )
2008.04.05 ![]()