※シカテマ破局後です。苦手な方は読まないようにしてください。先に「赤色指輪」を読んでくださってもいいかもしれません。








きっと君は幸せに















あの日から、一体幾日たったのだろう。




「 いいのか 」
「 かまわないよ、私は彼が好きだから。 」


砂の里、風影であり、末の弟。彼の12の頃には想像も出来ないような言葉に、
テマリは自身も15の頃にはできなかったであろう、柔らかい笑顔をつくった。

確かにそれは心からの笑みだし、気持ちであるのに。
その末弟、現砂の里風影はそれでも問うような、何かを気にかけたようなままの目を姉へ向けていた。
その目の意図するところを知る姉は、少し困ったように笑った。


「 我愛羅、本当に私はこれでいいんだよ。今、幸せだもの 」


その姉の言葉を、きちんと理解はしている。
してはいるが、どうしてもなかなか「そうか」という一言が出せない。姉の言葉に偽りはないはずなのに。


それはきっと、この話の為に彼女を探しだしたとき、彼女が空を眺めていたからだろう。
普段からのんびりするという姿がにつかわしくない姉が、ただ何時間も空を眺めているときは、決まってあの男のことを思い出しているのだから。
姉は言わないがわかっているつもりだ。そんなときの姉は、ほんの少し、ほんの少しだけ、寂しそうに笑うから。


「 我愛羅、木の葉には私が自分で伝令を書いてもいいだろうか 」


いつまでも納得いかないふうな弟にそういうと、弟は今度こそ諦めたのか、「かまわん」とだけ言って、書類を手渡した。
そのまま、出ていこうとする姉をよびとめて「何か希望はないか」と聞いた弟を、一瞬きょとんと見つめて、姉はぷ、と吹き出した。


「 …じゃぁ、一枚だけ、私信を添えてもいいだろうか。 」

「ああ」とだけいうと、弟は普段通り仕事を始めた。
扉をほとんどしめてしまってから、小さくありがとうと言うと、弟はおめでとうと返してくれた。それが嬉しくて、つい扉の前で笑顔がこぼれた。



ちょうど、なんだか空を眺めたくなって、自宅の屋上で、空をあおいでいた。
空をみれば、雲がいて、雲がいればアイツがいた。
そんな日が、懐かしくなって、ころりと仰向けになった。大の字になって、左手を数センチ浮かせると、影が出来る。
ちょうどその時、弟に呼ばれて、そのまま立ち上がった。私と弟は、太陽を背にした私の影でつながる。


ああ、あのときも確かこんな感じで。


「話がある。」そう弟がいったとき、大体予想はついた。
実際、彼本人から言われていたし、正式に申し込むということも、大分前から聞いていたから。
けれど、その日から空を眺めたくなることも多くて、でもそんな暇もなく任務で。
やっと空を見つめた今日今、その話がくるとは。首を傾けて笑う。今行くよ、と扇子を拾いあげる。
影がつながっていても動く体に、ほんの少しの違和感と、ほんの少しの切なさを覚えたのを、
きっとこの先私は忘れない。


大丈夫。これは私の希望でもあったから。彼は好きだ。
波長があうというのか、とても大人な人だ。
実際私よりも5つ年上だが、彼はそれを感じさせない幼さも持っている。
ああ、私はやっぱりちゃんとこの人を好きになれている。


他人の中で、一番彼が好きだから。自信をもって幸せになれると言おう。


















風が頬をなでた。
本当になんでもなく、木の葉の里によくあう柔らかい風が、ふいた。

今まで任務続きで忙しくて風なんか感じていなかった。
でもただ、なんとなく急に、門の外からふいた風にあの笑顔を思い出す。


「 …いや、あいつはこんな優しい風じゃねーな。 」


一人で笑ってしまった。本人にいったら怒鳴られるどころかすごい目でにらまれて、あげく殴られるかもしれない。
そう思いながら、俺の口からはここのところ忘れていた笑いが自然ともれた。

「 シカマル!火影様が呼んでるー! 」

いのが走りよってきた。夕暮れの長い影が繋がる。
あのときもちょうどこのくらいの距離だった。

「 はやく! 」

と、いのは俺の腕をつかんだ。術をかけなきゃ影がつながっていても、人は動く。


嵐のように俺の心をかきみだして、時折、そよ風のように癒してもくれた人。
繋ぎ止めておくすべも、強さも俺にはなくて、止まっていられるような余裕も、強さも、女にはなかった。
これが最善で最良の結果なんだと受け入れるのには我ながら時間がかかったが、今はそれで良かったんじゃないかと思える。



「 お前に手紙だ。それから、砂の里の姫さんが婚約されたそうだ。 」

その言葉を聞いても、俺はなぜだか驚かなかった。
あの風で、彼女を思い出したとき、なんとなくそんな気がしたから。驚いたのは手紙の方だ。


「 一日だけ、まつ。その旨の伝令の返事と、一通だけ私信を添えるのを許可する。 」


ありがとうございますと部屋を後にして、そのまま図書館へ向かった。不思議と焦る気持ちもなかった。

自分でも不思議なくらい落ち着いていた。
一番端の、死角になりがちな席へすわり、丁寧に手紙を広げ、俺は素直にそれを読み通した。
簡潔なその文章は彼女らしく、几帳面な文字も懐かしくて、


読み終えたところで、紙が二重になっていることに気付く。ゆっくりと、丁寧に、はがす。
かろうじて読めるそれは確かに彼女の字で、それをみた瞬間はさすがに、片手で顔を覆った。

その手紙の中身はすべて確かに、彼女の本心であったとわかるから。
だからこそ、そっと書かれたこの言葉も、彼女の本心であったのだろうと、そう思って、思わず俺は涙ぐむ。


まるで自分自身に言い聞かせるかのように、奇妙なところにうたれた句読点がそれを主張しているようで。
俺の目頭は意思に反して熱くなる。


今だけはいいだろうか。そう思って頭をふせて瞳をからそうとしたときだった。

あいた窓からさっき感じた、あの風が、大きく俺の顔をなでた。最初は強く、そしてゆるく優しく。



「 …また”泣き虫くん”、かよ 」


まるで彼女がそういったかのような気がして、俺は顔をあげて、筆をとる。
彼女も告げた。俺も本心を、きちんと書こう。



 おめでとう。幸せになれよ。



それだけで、きっと彼女には伝わるはずだから。
そして、彼女のように隠しをすることなく、紙の一番右下に、「俺も」とだけ記して、ありがとう、と手紙に告げた。

彼女の幸せを、祈る気持ちだけは本当だけど
悪いが祝いの席にはまだ、行けそうにないから。

そのまま、俺は筆をおいて
窓を、閉めた。


風がやんだ部屋は、少しだけ、さみしくなった。










奈良シカマル、

今まで、世話になったな。一週間後に結婚が決まった。相手はとてもいい奴だ。
我愛羅に対しても友好的な大名の息子だし、とても大人だ。
私はちゃんと、彼が好きだ。きちんとそれはお前にも伝えておこうと思った。
他人の中で、一番彼が好きだ。だから私は幸せになれると、そう心から思う。

お前と別れてもう7年になる。
私の中では長くて、短い年月だった。
あの時はお互い子供で、受け入れがたい気持ちも大きかったけど、
今はそれで良かったんじゃないかとおもえる。

お前もはやく相手をみつけて幸せになれ。そのときは一封よこせよ。
お前とは本当にいろいろあった。
私を成長させたのも、私を変えたのもお前だ。シカマル。ありがとう。







   ― ただ
   他人の中でお前を一番、愛していた。
   愛していた、んだ。




















































一万打企画のリクエストのつもりでかいていたものです。少し違うな、と思ったのでこちらに移しました。
こちらの方を先に書いたのですが、「赤色指輪」の続きとしても読めるかもしれませんね。

2007.01.27