2週間がすぎた。

あの日の挨拶以来、ネジがテンテンと顔をあわすことはなかった。身辺護衛の忍が姿をみせるはずもない。
ネジからは見えぬが、ネジをいつでも見れるように影から護衛に勤めるのがあの部の仕事だ。

つまりはほぼ、毎日テンテンはネジを見ている。

…はずなのに。
ネジは彼女の姿をみることはないのだ。

そして、鈍ってしまった感度は、彼女の気配を察知することもできない。


「 ネジ様 」

菊姫の纏う上質な絹がゆるく音を立てながら畳をこする。それでも窓を眺めたまま動かないネジの、隣に座ってゆっくりと近づく。
白い、手に触れる。

「 …私は寂しゅうございます。 」

「 … 」

菊姫がそっと手を握る。それでもネジは振り向かない。
しばらくして、ネジは握られた手を、ゆっくりと自分の方へひいた。触るな、という拒絶の合図である。

いつもならそれで引き下がる菊姫も、今日はそうならなかった。
そのままネジの首に両腕を回し、ネジの頬に触れ、首に触れ、鎖骨をなぞる。
そこまでしてやっと、ネジは首をまわして菊姫の橙色の瞳を見た。

菊姫の権力の理由であるその瞳は、白い”無”ではない。相手の目をみることで、思考や感情を読むことのできる、瞳。
ネジは迷わずその目をみた。まるでわざと自分の心を読ませるかのように、一瞬も躊躇することなく。

「 …わかりました。 」

ネジの拒絶の意思を理解したのか、菊姫はゆっくり立ち上がった。ネジが少し落ち着くのと同時に、菊姫は歩きだして、思わぬことを口にした。

「 ―テンテン。いらっしゃい。 」

ざ、という音とともに菊姫の後ろ、ネジと菊姫の間に降り立ったテンテンは、全身黒に口元を布で隠した、見慣れぬ姿をしていた。今までの動きからは見られない速さでネジは振り向く。
ネジの視力では、黒い塊と艶やかな着物の色しか見えない。
黒い塊は確かに長年連れ立った彼女のチャクラだ。けれど、これが本当にあのテンテンだろうか。
空気が、冷たい。
元暗部、という彼女の言葉が思い出される。ネジの知らない、テンテンの人生部分。

「 あなたは今日から部屋付になりなさい。
  見えないところから見張ることはネジ様の気を害しておられるようだから。 」

そこまで読まれていると思ってはいなかった。
テンテンが小さく「了承しました」と述べると、「使用人用の制服に着替えてね。」と言い残して菊姫は部屋を出る。少しだけ顔をのぞかせたその目は、ひどく冷たい色のオレンジで、

「 ネジ様。また3日後参ります。 」

その時こそは、といった意味をこめてなのか、最後ににこりと笑って、菊姫が立ち去る。
すると同時に立てひざを突いていたテンテンが立ち上がった。

「 テ… 」

思わず名前を呼ぼうとする。長年封じこめてきた名前は、完全に声になることはなかった。
振り向いたテンテンは口元の布をはずして、また改めて正座をした。
そして深く頭を下げる。

「 忍装束で姿を現したことをお許しくださいませ。すぐにお食事をお持ちいたします。 」

すっと立ち上がり、そのまま部屋を出ようとする。

なんだ。
なんなんだ。

久しぶりね、ネジ。

そういって笑うと思った。
そうであって欲しいと思った。
なのに、見えたのは作った笑顔。
ふたつのお団子は、どこへ 消えた。

「 テンテン 」

敷居をまたいだ彼女を呼び止める。まだ、かすかな期待を持って。

ネジ

そう、俺の名を笑ってよんでくれる、彼女を


「 何でございましょう、主様。 」


ひとつになったお団子は、
そう、はりつけた笑顔で振り返った。















2009.6