まさか、こんな風になるとは思わなかった。

どうしてどうしてどうして、そういう後悔の渦が自分の胸を焼くのを、テンテンは眉間に皺を寄せて静かに耐えていた。
ネジの前に姿を現すことの無い護衛担当だからこそ、この仕事をうけた。
それがこんな形で裏切られるなんて。

できるだけ。そう。

彼の前に現れないようにしてきたこの数年間を
一瞬にしてぶち壊された気がした。



 『 テンテン 』



ネジがそうよんだ。
数年ぶりに聞いた声は幾分低くなったようで、数年ぶりに見た姿は幾分細くなって、やつれていた。

なぁに、ネジ

そういって笑いたかった。あのころみたいにそう笑えば、元のように話せるんじゃないかと思った。
それくらい、私の名をよんだネジの声は懐かしくて
泣きそうになった。




あの、任務。

テンテンの背中に、ネジの目に、神経に体中に、心に。深い深い傷を残したあの任務が。

かさなりにかさなった偶然が、こんなにも自分たちの運命を変えてしまうなんて。


『テンテン!!』

テンテンの記憶にあるのは、そういって自分に駆け寄ってきたネジと、背中の激しい痛みと熱だけだ。
その時のネジの顔は、朦朧としてみた幻だったのかもしれない。そうテンテンが思うほど、それは、彼に不釣合いな、今にも泣きだしそうなほどにくしゃりとゆがんだ悲痛の表情だった。
そのまま気を失い、3週間程病院で面会謝絶状態にあったテンテンは、その後どうしてネジがあそこまで視力を失ったのかを知らなかった。

ガイやリーに聞かされた話がすべてで。





ひさしぶりの、ガイ班任務だった。ガイ先生じゃなくて、ネジが隊長を務めるのも、もう珍しいことじゃなくて、でもその日は私が隊長だった。
初めてというわけじゃなかった。だけどSランクで隊長になるのは初めてだった。けど、ネジもリーも居たし、不安はなかったのに。

任務は元暗部2人を含む、上忍クラスの抜け忍4人の始末。
二手に分かれて、それぞれ1人ずつ片付けるはずだった。それぞれネジとガイ先生が元暗部、私とリーが上忍を担当した。
ネジとペアを組み、一人目の上忍を始末したところまでは良かった。
突然天候が荒れて、大雨になった。残る暗部を追うのはこちらに不利な状況なため、
ガイ先生達と合流して、いったん休憩をとるはずだった。

「 ガイ先生、聞こえますか? 」

「 ―−…〜!… 」

「 え?何?! 」

「 ネ…ジ…〜 」

「 ネジに変わればいいんですか? 」

天候のせいで、無線の調子が悪かった。雨と風がすごくて、私には敵の位置がつかめなくて、ネジがずっと白眼を発動してた。
その前から過度使用すると痛みがでて、医者に注意されてたのは知ってたから、ネジにいざという時に使えないと困るといって、無線を変わるのと同時に白眼をやめさせた。
ネジが無線で話している間に、私は少しでも敵の位置を知ろうと、口寄せをしようとして…
今思えば、その時流した血がいけなかったんだと思う。
相手の暗部クラスの抜け忍は嗅覚に優れた奴で、雨や風の中でも自由に動けるような野性的な奴だった。

一瞬だけ、ネジの黒髪が浮いた。
思ったんだ、敵がきたとかそんなのは考えてなかったけど

危ないって。

その衝動のまま私がネジにかぶさると、背中が一気に熱くなった。
そのまま一緒に木から落ちて、私はネジの膝の上にいて、ネジが私を呼んで、白眼を発動したところまでは、覚えてる。

そのあとリー達が駆けつけるまでずっと、私をかかえたまま白眼をふる稼動させて、ネジは体を壊した。
私の背中の傷口があまりに深くて、動かすことができなくて、応戦もまともにできないまま、傷口の止血をして
気だけをはって約3日間。寝ずに休まずに白眼を使い続けた。
それでも二人とも生きて帰れたのは、一重にネジの実力あってのことだと、ガイ先生が難しい顔をして聞かせてくれた。

任務の日から2週間、私は眠り続けた。
やっと病院以外の人、ガイ先生とリーの顔を見れたのは、またそれから1週間後のことだった。そして、3週間ぶりの再会に、あの人の姿はなかったのだ。
そのときには もう ネジは治療に専念するようにいわれて、日向家にくくりつけられてた。

飛べない、鳥になっていた。





あの時の背中の傷はまだはっきりと残っている。

これが消えるまではネジと会わないって決めてた。その間に、もっともっと強くなって、もうそんなミスはしないよ、って笑ってみせるつもりだった。
2年もたたないうちに、きっと会えると思っていた。
そしたら、1年ほどしてネジが婚約したって聞いて。もう会いにいけないって思った。
背中の傷と一緒に消えない気持ちが残ってしまった。
あの時のネジの顔が忘れられない。あの時のネジの声が忘れられない。
いや、もうずっとずっと前から私はネジしかみていないのに。

もう、ネジをみることはできなくて
ネジは何もみることができなくて


それなのに、暗部としてはたらいて、火影様が紹介してくださった役員と結婚して、もう、いいや、って思って忍を引退しようと決めた直後だった。
菊姫から直々に火影様に私を日向家の使用人として雇いたいという要請がきたのは。

「 あなた、ネジ様とチームメイトだったんでしょう? 」

開口一番そういった菊姫の目はなぜか目が離せなくなるような雰囲気で、彼女自身も、菊という名の似合う凛とした印象だった。
ああ、ネジの奥様にはぴったりだな、なんて思って。
ちょっと切なくなったのを、今でも鮮明に覚えている。

心の氷が、少し欠け始めたのは、きっとこのときだったんだろう。

そんなことを思いながら、テンテンはゆっくりと、食事の盆をもって立ち上がった。
大きく息を吸い、長く静かに吐き出す。昔の自分、ネジが呼ぶ「テンテン」が、また彼に「会いたい」というのを無視して、その息とともに追い出すようにして心の奥底へとおいやって、

また作った笑顔を準備した。














2010.11