注意書はお読みになられましたか?必ず先に目を通してくださいね。






ただ それは

















己の我が儘でしかない吾まま、なのだろうか。


「 ネジ兄さん。 」

静かな高めの女性の声が、小さく静かに、広い和室に響いた。
広さに対して、布団と間仕切りしかほとんどおかれていないその部屋には、十分な声量だった。
その声に反応してか否か、ゆっくりと長い黒髪をゆらして
日向ネジ―現日向家準当主は白い目をこちらに向けた。

光のない目は焦点をあわせていないようだった。


「 御加減はいかがですか? 」


入口に三つ指ついて座っていた女性は、顔をあげ、ゆっくりと広い和室の奥へと歩み寄る。
年齢の割に少女のような幼さをまだ残していた。日向ハナビ。日向家、現女当主である。


「 …やめてください、ハナビ様。私のほうがあなたより位は下なのですから。 」


ネジは静かに声を出す。言葉の割にへりくだったようには聞こえない品の高い話し方が、彼の特徴だ。
抑揚の無い声は、年々低く、暗くなっているようにも思える。


「 でも私にとってネジ兄さんはまだ超えるべき先輩のままですから 」

にこりと笑って、布団横においてあるたらいの水を変えた。和室の入口とは反対側にある窓を、下半身を布団に入れたままのネジはじっと、見つめている。

一体何年この光景がつづいているのだろうか。


日向ネジ。日向家の分家出身でありながら、日向の血を色濃く受け継ぎ、
天才と呼ばれ続け、現在異例の準当主の位についている。御年27。

数年前からSランク任務での白眼の過度利用による障害によって、戦線を離脱している。
極端に失われた視力は、光しか感じない時もあれば、一時的に回復するときもあるという不安定な状態を続けている。神経回路を通して全身に広がった障害は現在主に下半身に響き、立ち上がることはできるものの、自力で歩くのは難しい状態にあった。

このように、座ったまま生活するようになって、一体どのくらいになるのだろう。
この家から、一体どれほどの月日、外の空気を吸っていないのだろうか。
外が今どんな状態なのか、ネジには知るすべもない。




小さな小鳥が窓から入ってきた。すっと、小さく腕をだすと、その白くやせた腕に小鳥は足をのせる。
どこまでも飛んでいける小さな羽を、丁寧に、丁寧に整えて。


「 …お前は、飛び続けるのだな 」


小鳥につぶやいた言葉はあまりにも小さなつぶやきだったけれども、広く静かな部屋にいるハナビの耳へ届くのは、そう難しいことではなかった。

「 あまり、深く考えずに休暇だと思えばよろしいですわ。

  …でないと奥方様も心配なさいますよ。 」


奥方とは、ネジの妻にあたる女性だ。
戦線を離脱したネジに、宗家は別の分家の女性を妻として娶らせた。
日向家に、くくりつけておきたかったのだろう。

奥方は名を菊姫と呼ばれており、分家の身でありながら、宗家に意見するほどの権力を持っていた。
菊姫は幼少の頃からネジに想いを寄せていたそうで、この結婚には自ら名乗りでたのだという。宗家にしてみれば、分家同士結婚させることで、菊姫の権力を抑えることができ、ネジという天才をくくりつけることも出来、一石二鳥だったのだろう。ネジの知らぬ間に、ほとんど話は決まっていた。
ネジの元へ顔をだすのは週に2.3度。ほとんど彼女のことを知らないネジは、彼女に全く関心をもたなかった。
婚約してから、一度しか夜を共にしたことのない相手。
それでも菊姫はネジへの想いは変わりはしないと、子を望んでいる。

ネジの想いが、別にあるとわかってはいても。







「 ネジ様 」

ハナビが戻ってから、数刻後。菊姫が本来来る予定ではない時間にネジを訪れた。
ネジは窓を見つめたまま、動かない。

「 新しい使用人を入れましたの。さ、ご挨拶を。 」

新しい使用人?
使用人など、数もわからぬほどいるのだから、いちいち挨拶させることもないだろう。
ということは、今後きっと俺の身辺を扱う係につくのだろうか。

ゆっくりと首をまわす。

入口に、華美な着物を着ている菊姫と、足元に日向家の使用人服を着込み、深々と頭をさげた女が見えた。


みなれた、ふたつのお団子は
もう頭の上にはなかったけれど。


代わりに下後ろひとつにまとめられたお団子が、彼女の雰囲気を、えらく、大人に見せた。



「 ―… 」



開きかけた口を、再び閉じて、閉じ込める。自分の中に閉じ込めて、閉じ込めて。
音にしないようにしていたら、きっとそのうち消えてなくなる。
自分の中でとけてなくなる。

そう思いながらずっと、封じてきた。

その名が、もれる。






「 …本日より、日向家準当主・日向ネジ様の身辺護衛管理にあたらせていただきます、

  元暗部のテンテンと申します。以後、お見知りおきを 」





封じ続けていた彼女は、色の無い声でそういって、再び頭を下げた。

名は、小さくこぼれていった。















結構長いお話になると思います。とりあえずはプロローグ、見たいな感じで。
この先、多分ものすごくゆるく更新していくことになると思いますので、
読み終わったら一度忘れてください。(笑)

2007.04.28