傷ついても   壱














―大分、涼しくなったな。


テマリは今、木の葉の里に来ている。
毎月の定例会議でくるたび、ここ2−3ヶ月は木の葉のうだるような湿気のおおい暑さにうんざりしていた。
暑さには慣れているのだが、砂にはない、ねっとりとした暑さが体力を奪うようだった。


ところで、今。
会議の帰りなのだが、テマリは例のごとくシカマルの送りをつけることなく
一人で里を歩いている。
一人で、とはいっても暗部のものが見張りとしてついては、いる。
他里の忍びなのだから当然だ。しかも自分は、一度裏切りをしている砂の忍びだ。


なぜシカマルがいないかといえば、別に特別な意味はなく、
単に会議がいつもより速く終わったがために、シカマルの任務終了に間に合わなかったのだ。

本当は少しでも会って行きたかった。シカマルと、恋人、という関係になったのは数ヶ月前のことだった。
しかし、関係の名が変わろうとも、あえるのはよくて月に1,2度。シカマルは木の葉の中忍、私は砂の上忍。
他里の忍がお互いにレベルの高い任務につくこともあるような有能な者なら当然だ。

今だって先月の会議から丸1ヶ月ほど会っていない。
だが、テマリは今日はすぐ砂に戻らなければならなかった。できるだけ迅速に戻るよう言われている。
だから、火影に伝えて、今日は一人で来た。

いつも歩いていたから平気だと思った。
普段は砂の中を迷わず歩いているのだから、自分が道を間違えるわけがないと、思っていた。
しかしふと気づくとテマリは見慣れぬ通りを歩いていたのだ。


( 一本間違えたかな )


火影に確認した道順を思い出しながら逆戻りしようとすると、
後ろから小さな殺気を感じた。

そのままふりかえらずに飛んできたクナイを叩きおとす。
なんとも勢いのない、弱い投げ方。


「 なんのつもりだ 」


ふりかえった先にいたのは、子供。
おそらく7〜9歳くらいの、アカデミーにあがったばかりだろう、子供。
その見覚えのない子供が、震えながら、おそらく冷たい目でふりかえったテマリに多少なりとも感じているだろう恐怖を必死に抑えて、こちらを睨んでいる。


「 …帰れ 」


子供は小さくつぶやく。
帰ろうとしたところを止めたのはお前だろう、と思い口を開こうとしたテマリに、子供は
つかみかからんばかりに叫んだ。


「 二度とくるな!!裏切り者の砂のクセに!! 」


その言葉に一瞬テマリが動きを止める。
周りで数人の大人たちが見ているが、誰も止める気配はない。
むしろ、私を、見ている。
この子供の目に近い、目で
憎しみのこめられた、目で。


「 それだけか? 」


テマリが至極冷静に一言、言い放ってきびすを返すと、子供はクナイを取り出した。
そして、まだつたない手つきで、チャクラをこめる。


「 父ちゃんを、 

  返せよ!! 」


そのままかけてきたその子を、テマリは避けることなく受け止めた。
もちろん、クナイはしっかりと抑えられているが。

テマリは道を間違えたわけではなかった。
いつもはシカマルが一緒、だから
避けて通っていたのだ、この道を。
木の葉崩しで、家族を失った人たちが多く住む、この道を。

父親を、失った。

砂の裏切りは、遺族にとってはけして簡単に許せる行為ではない。
そんなことはわかっているつもりだった。


それでもこの里はやさしいから
いつの間にか、甘えて、いた。
この里の人間は。
…あいつが優しいから
甘えていた、のかもしれない。



「 …忍だったら感情を表に出すな。利用されるだけだ。アカデミーでも最初に習うだろう? 」


テマリは子供の手首を握ったまま静かに言う。
まわりの大人はそれでもみているだけだ。
恐怖で動けない少年は、それでも自分の震える足を踏ん張っていた。
テマリを、つよい瞳でにらむ。


「 っうるさい!!木の葉を利用したくせに!!!

  人殺しの、くせに!木の葉にくるな!!

  爺様が言ってた!!砂は穢れた里だ!! 」


その言葉に再びテマリの動きが止まる。
それでも子供は叫び続けた。


「 俺、知ってるんだ!!お前だって人殺しなんだ!! 」


テマリが少年から離れようと、したそのときだった。

まさかアカデミーにはいったばかりだろう、その子がそんな術を知っているとは思わなかった。
不安定な力をこめられた爆発系の術。
チャクラ自体はわずかなものの、爆発系の術は少量のチャクラを倍増して破壊力にかえる。

しかし、それは自滅に近しい行為だった。
不安定なままの術を、至近距離でテマリにぶつける。
もちろん少年がその爆発を制御できるはずもなく、爆発から逃げ切れるはずも、なかった。


テマリはすばやく少年の放ったチャクラの起動をずらす。
テマリが想像していたよりもはるかに強い力を持っていたその術は、テマリの後ろにたつ廃墟にむかった。
それが、まずかった。

こんなにも古びた建物に爆発術がぶつかれば、倒れてくることはわかった。
軌道をずらすべきではなく、術ごと相殺すべきだということも判断できた。


けれどそうしてしまえば少年は助からない。
同盟国で、いくら襲われたとはいえ、少年の命を奪うなど、できるはずもあろうか。
いや、それよりも。
死なせたく、なかった。


自分と同じ、父を失ったという彼を。
自分が奪ってしまっただろう、彼らの日常を。

これ以上奪いたくなかった。

…どこか昔の弟に似た、瞳をもつ彼を

このままに、死なせたくなかった。


倒れてきた廃墟から少年をかかえてとぼうとすると、テマリの予想に反したのは
少年が暴れたことだった。


「 はなせ!さわるな!! 」

「 馬鹿!死にたいのか!! 」


いうやいなや、目の前が真っ暗になって、耳が壊れるかと思うくらい大きなガラガラという乾いた木が崩れる音がした。
扇子をとりだす暇もなく、飲みこまれる。

テマリはとっさに少年にかぶさった。



































続きそうです。

2006.9.18