肆
「 テマリ様ッ 」
「 順調だ、このまま行く! 」
止まるな、止まるな。決して止まってはならない。止まってはいけない。
止まったら躊躇してしまうかもしれないから。自分はそんなに甘くないとわかってはいても、もしかすると、躊躇したくなってしまうかもしれないから。
奴の頭脳に勝てるとは思えない。意地を張っても仕方ないことだ。そこは認める。
だからこそ、絶対的に成功させることは無理だとしても。
これは、この作戦は、木の葉という大里相手に、すでに戦力のつきかけている砂里にとってラストチャンスなのだ。
―この戦を終らせる
ラスト、チャンスなのだ。
*
…我愛羅
人に愛されたかったら、まず相手を愛さなくちゃいけない。
人を愛すのはそんなに簡単なことじゃない。
…だけど、すごく自然で、単純なことでもあるんだよ。
そう笑った姉を見たのは、ほんの一年もたたないくらいの時であったのに。
報告を聞いて砂里門前に立つ我愛羅は思う。
風影である我愛羅もでなければならないほどに、砂の力は弱まっていた。
大里である連携も得意とする木の葉に対して、砂の忍は単独を好む。木の葉のシステムを参考にしながら育成をしてきたとはいえ、まだまだ戦力不足。一人ひとりのレベルは高くとも、連携には向かない。
このような里同士の戦になったときに、砂が木の葉に勝ち目がないのは、薄々、いや誰もが予測していたことだ。
自分たち姉弟が、こうして互いを思いやるようになって、互いに笑顔を見せ合うようになって、どれくらいたっただろうか。昔は”恐怖”しか記憶になかった姉と兄の表情は、幾重にもかさなって増えて、分類できないほどになった。
本当の、血のつながりだけではない、姉弟としての関係をもてるようになった。
それをくれた人と里。
その絆を失わないために、風影となったのに。
心のどこかで憎んでいた―父への思いと向き合って、憎しみのそこにあった「愛して欲しい」という思いと向き合って、そうしてやっとここまできたのに。
あんなふうに、人を変えて、支えて、共に生きていけるような場所にしたいと、
細かな砂が風に吹かれて舞い上がる。
たびたびこの道を、姉と兄と駆けて、あの緑豊かな暖かい場所へいったことを思い出す。
もう一度、この目でみられることを祈って。
―隣には、もうあの人はいなくとも
あの人の願いをかなえられるように。
我愛羅は、門前で拳をまっすぐ突き出した。握り締めた砂は、自里のもの。
これで終るかもしれない。
強く握りしめながら、遠く砂の地平線にみえる木の葉の忍を見つめた。
知っていようが、知らまいが、命の重さに変わりはないことをわかってはいつつも、
知った顔がいないことを、少し期待しながら。
―我愛羅、聞いてくれ
視界がゆがむ。周りの忍たちが、緊張していく。俺にさがれと言う者もいる。
それを耳にしながら、2週間程前の姉の言葉を思い出す。
―私はこの戦を終らせる。
決意に満ちたその目が、もはや何も受け付けなかった。
―私にしか、できない役目だ。
淡く笑った顔を、忘れない。
「 …テマリ… 」
その作戦を容認した自分を憎んだ。それしかないといった姉を恨んだ。責めてくれた兄に感謝した。
それをさせたこの里の上役どもを憎んだ。そんな里を変えられなかった自分を、
止められなかった自分を、
守れなかった、あいつを―
「 ―馬鹿が 」
頬が、熱いものを伝えた。
貴重な水分を、これ以上流さないうちに
「 行くぞ 」
終る戦に願いをこめて。
永久不変を信じて咲いた
( 花の枯れるところなど見たくはなかった )
小さな幸せでも、すべての人におとずれることを祈ってやまないです。
2010.1![]()