弐
「なぁ、もしも」
私達が再び刀を交えることになったら
私達が再び殺しあう関係になったならば
「お前はどうする?」
決して答えのでない問だった。
その時になってみねぇとわかんねぇよ、とゴロリと横になった脳天気な男を横目にみて、きっとこいつは躊躇するんだろうな、と思った。
「私は、殺すよ。」
お前であろうと。それが忍だから。
正面を向いていたら、横で男が起き上がる気配がして、振り向く。
すぐそばに漆黒の瞳がみえた。何を考えているのか、見せてはくれない闇の色。
けれどどこか明るい、透き通った黒。
「 そういうと思った。 」
男は目をそらすことなく静かに笑った。
「 …いいのか、そんな呑気で。 」
静かに男の手が、私の手の上にかぶさる。少しだけ縮まった距離は、これ以上狭まることはない。
決して、この先の行為に進むことなく、私たちはただ互いの瞳を見つめ合うだけ。
簡単に裏切ることが出来ると、そう言っているのに。
もしかしたら今この場で、お前の命をとるかもしれないのに。
「 仕方ねぇよ、そういうもんだろ 」
めんどくせぇと付け加えて、男は木に背をあずけて目を閉じた。
割りきっているような、理解しているようなセリフだけれど 男はきっとわかっていない。きっと割りきれていない。
だからそんなに綺麗でいられるんだ。
だからそんなに暖かでいられるんだ。
闇の瞳を持っているのに。
木陰の色の、明るい宝石の色の瞳をもつはずなのに
時折女の瞳は暗くなる。
冷たく、暗い闇をみせる。透き通った色のはずなのに、濁ったように奥が見えない。女の奥は見えない。
「 私は殺すよ 」
その言葉は確かに本気で、きっと女は本当にその時になったら、必要な時になったら、俺でも他の面識ある奴らでも、殺すんだろう。それがこいつだ。
けれど、きっとその後さらに女の瞳は陰るんだろう。曇るんだろう。
前が見えなくなるくらいに、色を失う“黒”になるんだろう。
そう思いながら女の瞳をまっすぐ見つめた。透き通った色。日常的には、みることのない色。
…いつもそばにあればいいのにと、思う、色。
そっと女の細くて白い手に触れる。拒むことも、受け入れることもしないふせられたままの手は、ひどく暖かい。
女の意思も俺の意思も、確かに通じていて、きっと普通ならこのまま互いの距離はなくなっていくはずなのに。決して縮まることのない距離が確かに俺たちにはあって。それはどうしようもない事実だった。
里が違う。
それだけで、互いの気持がわかっていても、互いの想いが同じであっても、どうしようもない距離が生まれる。…いや、同じようできっと女と俺の想いは違うのだろう。
抱えているものも、背負っているものも。
すべて降ろしてやりたいと思うのは俺の勝手でしかなくて、女はそんなこと全く望んではいないのだろう。すべてを抱えたまま生きていくのが、女の意思なのだ。
俺がどうしようと変わらない、女の意思で。どうしようもない、俺らの距離なのだ。
恋は孤悲だと誰かがつぶやく
( 二人でいるのに一人きりで祈ってる )
2009.7 ![]()