影熱        一万打企画:POYO様リクエスト














前編



「 あら、テマリちゃん? 」

木の葉の里をいつもの通り、目つきの悪い中忍見送りをつけて歩いているときだった。
この里で私のことを知っていて、このような呼び方をする者を、私の思いつくところでは一人しかいない。

「 か、母ちゃん! 」

隣の中忍があからさまに嫌そうな顔をすると、振り返った先にいた女性は息子のデコをぺしっとはたいた。
黒髪の美しい、気丈な人。シカマルの母君、ヨシノさんだ。

「 こんばんは、ヨシノさん。 」

「 はい、こんばんは。今日はこれから任務なの? 」

「 いいえ、今終わったところで、これから宿に戻ろうかと… 」

そういうと、ヨシノさんの顔がパァっと明るくなるのがわかった。あ、この展開って。

「 あら!じゃあ夕食うちでどうかしら?!ねえ、シカマル! 」

やっぱり。

「 は、ちょっと何言って… 」

「 ね、テマリちゃん。今日は父ちゃんも非番で家にいるのよ。大勢の方が食事は楽しいわ 」

「 いや、でも… 」

「 いーからいーから!ホラ、シカマル。これ持って! 」

「 勘弁してくれ… 」

断りを入れようとする言葉もさえぎられ、シカマルはヨシノさんのもっていた荷物(おそらく夕飯の材料と思われる)を押し付けられた。
ヨシノさんがぐぐっと背中を押すので、それにつられて進んでしまう。
数歩後ろからはぁー、というため息が聞こえるのが少しおかしくて、背中の手のひらから伝わる熱がなんだか嬉しくて、私はそのままお言葉に甘えることにしてしまった。

少しずつ、見えてくる木造のシカマルの家。単純に、人の家にお邪魔することなど滅多にないというのに。
この家にくるのは一体何度目になるのだろう。
隣のヨシノさんと、後ろから聞こえる「めんどくせー」とこの道が、ひどく懐かしい。
他里の忍である私が懐かしいなんて、おかしいのだけれど。
なんだか昔見慣れていた光景を失うような気分になって
ひどく、切なくなる。

これがきっと最後になるのだろう。
そう思いながら、玄関の敷居をまたいだ。

「 おー、よく来たな 」

そういって、毎度毎度長旅大変だろ?と風呂上りらしきシカクさんが出迎えてくれた。
息子は滅多に見せない満面の笑顔(もしも息子が満面の笑顔をのせたなら、こんな顔になるのだろうか。)をのせたまま、
夫婦はいらっしゃい、と言ってくれた。息子のぶっちょう面に反して、とても笑顔の多い夫婦だと思う。とても、暖かな笑顔。
けれど、息子も同じ暖かさを持っている。笑顔の中でなくても。
今日の天気みたいな、ほかほかした、木の葉の空気だ。

食事の支度を手伝う、といったのだが、いいから上で待っててと言われてしまったので、
後から到着したシカマル(ヨシノさんに遅い、とか何とか怒鳴られていた。)に連れられて二階のシカマルの部屋にお邪魔することとなった。

「 妙なことすんなよー、シカマル 」

「 しねーよ! 」

階段を上る途中にケラケラと笑う声とともにかけられた言葉に、珍しく声を荒げて反発したシカマルはそのまま上へと行ってしまった。仕方ないので一礼して、後をおう。

シカマルの部屋に入るのも、初めてというわけではない。以前泊めていただいたときにも、この部屋を貸していただいたし。
ただ、まぁ…シカマルと2人でこの部屋に入るのは初めてかもしれない。


「 悪ィーな、最近まともに掃除できてねぇから、ちっとちらかってる。 」


そういいながら、ベッドの上の、おそらく朝脱いだのであろう寝巻きを片手にまとめ、床に落ちていた本を机に置いた。(いうほどちらかってはいなかったように思う。)
机のそばにある本棚には医学書のような本が数冊、それから将棋の本が二冊、たっていた。それ以外に目立った本はない。
彼の頭脳は別に、私のように幼い頃から戦略や地形をたたきこみ、忍として生きるために育てたわけではないのだろう。生まれもってのものなのだ。


「 …なんだよ 」


部屋をぐるっと見渡してから、シカマルを入れて、背景に部屋をいれてみてみる。
なんだか急に、緊張してきたかもしれない。

前に部屋に入ったときは、本のことも、机の上の書類や忍具も、置きっぱなしのコップも、特別気にはならなかった。ただ、ここが奴の部屋なんだ、とそう思って、物に触れないようにしていた。

そのときとは違う、緊張が私の足に響いているのがわかった。
「茶でもいれてくるから、そのへん座っててくれ」といって下へ降りていったシカマルの足音が一階で止まるまで、そのまま立ち尽くしていた。

シカマルとシカク殿の声で、ああまたからかわれているのか、なんて思いながら腰掛けようとして、机の上の写真たてが目に入る。
確か、奴のスリーマンセルチームだ。
ヒゲの男と秋道と、山中。そして首をしめられてなんだか照れているようなアイツの顔。
こんな顔をするものなんだと、写真たてから右上に視線をずらすと、カレンダーが見えて、赤い丸印が今日についていた。
…もしかして、という気持ちをもって数ヶ月前をパラパラとめくる。…やっぱり。

任務の日なわけじゃあない。この赤い印は私が木の葉に来た日にだけついている。
なんだか急に見てはいけないものを見た気がして、元に戻し、腰を落ち着ける。
座るとベッドの隙間が目に入った。そこには洗濯籠があって、さっき放り込んだ寝巻きの下に、あの、服が見えた。

「 …捨てろって 」

言ったのに。こぼれた笑みは、誰も見てない。
見てない、聞いてない、けど

「 …馬鹿な奴… 」

ありがとう、とはいえない。きっと今、いえない。今日中に、いえない。
つまりは
最後まで

「 いえない、な… 」

窓から冷たい風がふいた。暖かな日差しは昼間だけで、まだ夜は冷たい風が吹く。
空は綺麗な三日月になりかけていた。







「 お前どーすんだよ? 」

「 どーするって何が 」

お茶を入れているシカマルの横で、シカクが嬉しそうにすりよってきた。
お茶をいれながら、軽く肘で「近づくな」とアピールすると、やっと離れた。少しだけ、声のトーンが落ちて。

「 嬢ちゃん、今回の任務今日で終わりだろ? 」

その言葉でシカマルの腕がパタリと止まる。けれどそれも一瞬で、入れ終わった湯のみをお盆にのせたまま持ち上げる。
少し、こぼれたかもしれない。

「 別に…どうもしねぇよ 」

どうしようも、ねぇだろうが。
そういう想いもこめて、静かに声に出す。背中に感じるシカクの視線を、そのまま真正面に受け止めることは、できない。

「 …里が違うんだぞ。 」

「 だから、だろうが。 」

やめてくれ、とでもいわんばかりに発した核心を、そのままつきつけられる。
そう、里が違うんだ。違うんだよ、だから本当に

「 二度と、会えなくなるかもしれないんだぞ? 」

わかってる。そんなこと
それが里が違うってことなんだって。

中忍試験が、終わった。
今日の残務処理を最後に、あいつは、試験担当から降りる。そして、俺も。
通常任務に戻る。お互いの里に訪れることは滅多にないだろう。
次にあるのは数年後。それまで砂と同盟が続いているとは限らない。
あいつが、また試験担当になるとは限らない。
あいつが、まだ独り身だとは限らない。
あいつがまだ

生きているとは限らない。


「 …わかってる。 」


でも、めんどくせーよ。

今日伝えてしまうのも、今日言わずにこのまま何もなくなるのも

どちらも、めんどくさいんだ。


だって俺に、何が出来るっていうんだ。

伝えたからって里が違うことに変わりは無いんだ。

ならばこのまま

消えてなくなるのが、賢いとは思わないか。



二階にあがっていったシカマルを見送ってから、シカクはひとつ、ため息をつく。
食事の支度をしながら2人の会話を聞いていたヨシノが、そっとそばへよると、シカクは片眉をくにゃりとまげて、少し苦笑いをした。

「 …頭が良すぎるってのも考えもんかもしれねーな 」

「 そうねぇ…一体誰に似たんだか。 」

頬に手を当てて、ヨシノはふうとため息をつく。シカクは、シカマルがおいていった急須を手にとり、流し台へおいた。
お湯で温まったはずの急須が、すでに冷めかけているのに気づく。

こぼれたお茶が、すこしだけ 残っていた。


「 こりゃあ…ちっと熱が必要だな 」

「 何たくらんでるの、父ちゃん 」

「 んー?ちょっとな。 」

顎をさすりながら、にやりと笑ったシカクに、あきれながらも少し期待するヨシノであった。











POYO様、企画に参加ありがとうございました。シカ→テマ+奈良夫婦です。
本当に本当に遅くなってしまって申し訳ございません!
なのに、スランプで納得いくものが書けず、さらには前後で切らせていただくという…
本当に申し訳ないです。
けれども、続編をリクしてくださるほど、あの作品を気に入っていただけとは、嬉しいです//
後編はまた時間がかかるかもしれませんが、気長に待っててやってくださいませ…
ありがとうございました!

2007.04.02