影熱        一万打企画:POYO様リクエスト














後編



「 待たせた 」

「 いや、すまない。 」

二階の自室に戻る前、一度部屋の前で深呼吸をした。
まるで、緊張しているかのような行為だが、別に緊張しているとかそんなことではなく。
あいつがいると、思うだけで

「 熱っ… 」

茶をおいてそのままぼーっとしていたら、ふいに隣からそういういつもより若干高めの声がして、女は右手を耳たぶに当てていた。
自分が飲んでいないから気づかなかったが、俺がだしたお茶は相当熱そうな湯気をたてていた。

「 あ、悪ィ 」

茶なんて普段いれねぇから、温度なんて気にしちゃいなかった。
女は「なんてことはない」といいながら、耳たぶに触れていた指をそのまま口へと含んだ。
その動作を追っていた目は自然に女の唇へとうつってしまい、指を含む瞬間の唇の弾力から、その柔らかさを想像してしまった。

例えば今こうして俺の前にいるこの女は、明日を境に俺の前から消えて
来月には殺しあう関係になっているかもしれなくて
来月には男ができているかもしれなくて
来月には

俺のことなんて

忘れているのかもしれない。

そう思ったら無性に湯のみから立ち上がる湯気がうっとうしかった。

別に、はっきりとしたことがあるわけじゃ、ない。
伝えたいことがあるのかもしれない。でも無いのかもしれない。
めんどくせーからはっきりしたいのに、はっきりさせたら余計めんどくせーことになるのかもしれない。

ただ、俺の中では珍しく話していても疲れない「女」の存在がなくなるのが、
めんどくせーのにもったいないと思っているだけなのか。
それならこの他里の女でなくても、こんな、めんどくせー関係の女で、なくても、
話しやすい女が見つかれば、それでいいのではないか。
そんなことを思いながら、しかしそんな女がいるものかと思ってみて、また思考が0になる。


「 おい 」


一人で考え込んでいると、女がふと声を発したので、予想外に驚いてしまった。
しかしすぐに立て直したのできっと気づかれていないだろう。
何気ない顔をしてゆっくりふりむくと、あろうことか女は人のベッドに座っていた。

「 ーんだよ 」

「 …いや。 」

珍しく話しかけたくせに曖昧な言葉を残して、女はごろりと上体を倒した。
女のその行動にも驚いたが、いいかけた言葉が何より気になって、問い詰めようと口を開くと、
まさにそのタイミングを狙ったかのように母ちゃんの「シカマルーテマリちゃん、降りてらっしゃーい」という声が聞こえた。
女は素早く上体を起こして立ち上がり、後ろ髪を少し直して(妙なところに女の「女」としての一面を見た気がする。)扉へ向かった。

食事中は予想通り。
向かいに親父、その隣に母ちゃん。その向かいにテマリ。要するに俺のとなりに、女は座った。
親父がどうでもいい昔の俺の赤恥をさらして、大笑いし、女も途中何度か俺をからかうような発言をした。まあ、決してそれは今に限ったことではないのだが。

どちらにせよ、今さらだ。
俺の今のところ人生で一番かっこ悪い出来事を知っているんだ。この女は。
 
だからなのか、これ以上何をいっても関係ないけれど、出来れば女にはこれ以上失態を知られたくないような気がして。

そういえば、普段はからかうような、下にみるような発言を作った発言でなく、思ったままに言う人だけど。

( 泣いた…って話は誰にもしてないんだよな )

あの日のあの出来事を、直接見たのは親父と女と火影様とシズネさんだけ。
親父が酔った勢いでいのやチョウジの父親に語り散らして、いのには散々つっこまれたりしたが、女は弟たちにもそんな話はしていないようだった。
ただ、女にとっては話すほどの出来事ではなかったのか、それとも。


「 そういやー、テマリちゃんは見合いするんだって? 」


親父のその一言で、俺の思考は一気にストップされた。
確認がてら女をみると、は口元に運んでいた食後の湯のみをぴたりととめて、一瞬間をあけてから静かに顔をあげて、小さく声をだした。

「 …どうしてご存知なんですか? 」

ドクン、と心臓が高鳴ったのが確かにわかった。
いや、一度きりではなく、数回大きくなる。静まれ、と顔に出さないよう必死に熱があがってきた頭で怒鳴りつける。

「 いやー、風影様からの文書、解読手伝ったもんだからよ 」

「 …我愛羅のやつ、報告しなくていいと言ったのに。 」

チ、と小さく舌打すると、女はすこし斜めしたをむいて、お茶を口に含んだ。
見合いって

「 えー、お相手は? 」

母ちゃんが心なしかキラキラした目で、前に乗り出した。
女は心底思い出すのも嫌そうな顔をしたが、「ただの大名です。」と答えた。

「 なんでも嬢ちゃんに一目ぼれしたんだそうだ 」

「 やだー、まあテマリちゃん美人だものね 」

「 …そんなんじゃないです。ただ、砂の里の風影の姉というランクが欲しいだけだ。

  国と里の確かな繋がりの証が欲しい、だけだ。 」

段々とテマリの声に力がこもるのがわかった。思い出しているのか、母を。
里のために利用された「女」という存在の母を。

「 …まっぴらごめんだ。 」

「 でも、仕方ないことも、ある。 」

女の言葉に、親父が続けた。
女が言おうとした言葉を先に言ったようで、女は少しおどろいて顔を上げる。
すばり女の思考を言い当てた親父は、腕を組んだまま、にやりと意地悪く笑った。
…それくらい、俺だって読める。


「 って思ってんだろ、嬢ちゃんは

  それで?仕方ないからどうすんだ。里のために弟のために

  そんな意味のわかんねぇ奴と婚約して子供つくるって? 」

「 … 」

「 …ねぇ、テマリちゃん。それじゃ、弟さんのためにはならないんじゃないかしら? 」

「 −我愛羅は、断ってもよいと…言っては、いる。 」

けれどそれは一応言葉として発せられてはいても、実質的には里に多大な被害を及ぼすかもしれなくて、
今回の大名は里内の薬草や医療に関する内部の援助をメインに契約している家系だ。
医療系に乏しい砂の里にとっては、その大名ときれるのは非常に大きなリスクを伴う。

「 我愛羅の為、里の為、とかではない。

  私がそうしたくないだけ、そうなって欲しくないだけ、なんだ。 」


もしも再び母のようなめにあったとき。
もしも再び弟のように毒をあびたとき。
もしも再び末弟のように、なったとき。

何か出来ることが、ある里にしていきたい。


静かにお茶を見つめたまま、女は言った。
静かで、抑揚のない声だったけれど、確かな意思が声と目に含まれていた。
女は、本気だ。
親父はまた、笑う。

「 そろそろ片付けるわね。 」

「 あ、手伝います。 」

テマリが母ちゃんについて台所に向かったのをみおくると、親父が嬉しそうに近寄ってきて、俺の首に肘をひっかけて縁側へと引きずりだした。
ガタガタとあわてて立ち上がって親父についていく。

「 そこで、だ 」

指を一本たてて、それはそれは楽しそうに。指を俺の鼻先へ指し示す。

「 風影様がわざわざ木の葉に連絡してきたのはなんでだろーなぁー、なあ、シカマル。 」

「 …俺が知るかよ。めんどくせー… 」

木の葉は医療術が発達している。薬草も多いし、それに今は伝説の医療忍者の綱手様が火影だ。
医療で木の葉に勝るところはこの五大国といえど、類をみないだろう。
要は、


「 大名の代わりの医療のツテが欲しいわけだ 」


親父が腕を組みなおして笑う。縁側にでるには少し薄着だ。まだ夜は冷たい風が、手を冷やしたので、ポケットにつっこむ。
首の角度を変えて、再び親父をみつめる。笑った親父の強い目に耐え切れなくて、目をそらした。
見えるのは足下。

「 …だからって、俺とは関係ないだろ 」

「 そうだな。お前じゃなくてもいい。 」

たたみかけるように素早く言われた一言にくっと思わず顔を上げる。親父と目が合った。

( わかりにくいようでわかりやすいんだよな、こいつ )

「 木の葉の忍で医療関係についてる奴なら他にいくらでもいる。

  それにお前は医療は専門じゃねーしな。 」

シカマルのポーカーフェイスが崩れるなんて、冷静な対応がしきれていないなんて。
動揺しきっている証拠だ。それだけ、お前は嬢ちゃんに動かされてるんだ。

その意味、わかってんのか?


「 …でも、守ってやるっていったんじゃねぇのか? 」

ピクリと反応する体。漏れ出してる、感情。

大切な、笑顔。

希少な彼女の、緩やかな笑顔。

汚れてしまった自分を、汚れていく自分を、無理やり必然として生きてきた、忍という彼女の生き方。
無意識のうちに、忍では無い部分の自分を、隠して生きてきた、砂の少女。

少女というには、あまりに重い、くの一。


「 お前以外の奴でも、いーんだよ。 」


彼女を守ってやるというのなら、別に。
かつて俺が抱いた気持ちのように、失いたくない人を守りたいと思う気持ちをもてるなら。
まるでうちの母ちゃんみたいに、強くてでかくて、暖かくて堅くて。だからこそ、とても もろい。
そんな、あの子を


「 守ってやれるなら な 」


ただ、なぁ シカマル。

男は一度口にだしたことは筋を通さなきゃなんねぇ。

今一番男らしくねぇぜ、お前。腰抜けは、泣き虫は。

卒業したんじゃねぇのか?


「 …あー、くそ。めんどくせーな!もう。 」


かたまって立ち尽くしていたシカマルは突然吹っ切れたようにガシガシと頭をかいた。
そしてづかづかと室内へ戻っていく。


「 …あーあ 」

勢いよく開けた障子が破れてしまったことにも気づかずに、息子は台所の嬢ちゃんを外へ連れ出した。
わけがわからぬまま連れ去られた嬢ちゃんは、玄関で一言「ありがとうございました」と言って、シカマルについていく。
隣で母ちゃんもぼけっと見つめていた。あんなに激しく動いた息子を見るのが珍しいからだろうか。
こっからは俺たちの干渉のしようがない。


「 …テマリちゃん、変わったわね。 」

「 おう。シカマルもな。 」


ありがとう、と
言えることが当たり前なのだけど

いえることがどれほど幸せで、どれほど勇気のいることだか、わかっているのか。

いえる相手がいて、いわれる相手がいて、伝わる相手がいることが

どれだけ、










数日後、テマリの見合いは破談になったという一報が木の葉にとどいた。
あの日あの後何があったのか知らないが、息子はなんだかふっきれたみたいだったし、
翌月再び訪れた嬢ちゃんとの関係も、今までとなんら変わってないようだった。

縁側で将棋をうつ2人をみるのにもなれたものだ。
息子が着ているTシャツを、気にしなくなった嬢ちゃん。
嬢ちゃんの目を見るのをためらわなくなった息子。

ヨシノは中から2人を見ているシカクの隣に並び、頬に手をあて、ため息をついた。

「 本当に何があったのかしら… 」

「 さぁな。でもよ 」


ほら、また

珍しく笑った息子と、それに反応して表情を変える嬢ちゃんの、

髪が、小さくそよ風に揺れた。











POYO様、企画に参加ありがとうございました。シカ→テマ+奈良夫婦、後編です。
何だかリクエストと違ったものになってしまったような…;でも楽しくかかせていただきました♪
ありがとうございました!

2007.04.28