優しさナイフ
















( さすが、だな )


サスケ奪還任務後、3ヶ月の間、木の葉の里で外交をしてこいと命ぜられたテマリ、我愛羅、カンクロウの砂三姉弟は今日は休暇をもらった。
一週間、毎日砂との連絡をとりながら木の葉との外交問題をすすめていた三人にとって、精神的な休暇が必要だろうということだった。

木の葉の里はもうすっかり元通りになっていた。
木の葉崩しを、ものともしないかのように。この里は、人という強さをもっている。
暖かい、やさしい里。
でも、だからこそ


( 本当に )


居心地が、悪い。砂という冷たい世界で、自分の息子や妻を死に追いやるような風影である父のそばで育ったテマリには。
優しすぎるのだ、この里は。

自身の里を襲った彼女たち砂の忍びに対しても、普通に接してきてくれる。
だから、


( 胸が、痛む。)


今まで任務で幾度となく人を殺した。下忍であっても能力を認められればレベルの高い任務につく。
特に木の葉崩しで上忍に多数の死者をだした砂は、現在人材不足だ。
最近はよく人殺しをさせられる。

それでも、平気だった。

任務だと思えば、人を殺すことだって、なんら後ろめたさも罪悪感も感じなかった、のに。

この里を襲撃したことだけは、胸が痛む。

この里にいると、人殺しもひどくやりにくくなる。とても罪悪感にさいなまれる。

優しすぎるから、この里は。



ふと、あの男の顔が浮かぶ。

私を負かせた男。私が救った男。仲間を失うことを恐れた男。


( 奈良・・・シカマル、か )


アイツも優しすぎる。まったく、忍びには向いていない。
甘い。人を殺すことなんてきっとできない。



「 って おい 」


考え込んでいたら急に声をかけられた。
丁度、今頭にあった男の顔が、下のほうに見えた。
奴のことを考えていたのを知られたような気分になって、妙に動揺してしまった。


「 何してんだよ、こんなとこで 」

「 ・・・みてわかるだろ、本を読んでいる。 」

「 いや、なんでこんなとこで読んでんのかってこと 」

そういってわざわざ男は私の座る枝へ飛んできた。
枝が、揺れる。

「 別に、意味はない。 」

できるだけ、奴を見ずに。枝がまた揺れる。

「 だったらよ、図書館とかで・・・ 」

「 コレ 」

そういってテマリは顔をあげ、自分の首に巻いてある額宛を親指でさした。
一瞬きょとんとしたが、砂のマークを目にして、シカマルはすぐに「ああ」と納得した。

意味、あんじゃねーか。人目につかないようにしてたのか。

「 でもよ、もう綺麗に直ってっし、誰も気にしねぇと思うけど? 」

そういいながらシカマルは枝に腰掛ける。テマリは手元の本に視線を戻した。

「 ・・・それが、嫌なんだ。 」

「 ? 」

シカマルはわからない、といった顔でテマリを見る。テマリは視線は本に落ちているが、何も見てないふうだった。
翡翠色の瞳に長いまつげの影が落ちる。

( 睫毛、長ぇな )

シカマルが関係ないことを思った刹那、テマリは顔をシカマルへ向けた。

「 罵られるのは、慣れている。憎まれるのも、慣れている。
  しかし・・・ 」

風が ゆるく、二人の間を通り過ぎる。 テマリがあさく、唇に笑みをのせた。

それは、本当に のせただけの、笑み。



「 許されるのは、慣れていない。 」



翡翠色の目が、ひどく切なげに、透き通ったその瞳が一瞬かげった。

シカマルはいつも面倒くさそうに半分伏せた漆黒の瞳を大きく見開く。




「 ・・・やさしくされるは 嫌いだ。」



「 自分が ひどく 汚れた奴なのだと、実感させられる。 この里は・・・慣れない。 」



視線を里へむけて、まだテマリはその哀しい笑みをのせている。

そんな顔、すんな。

なぜか無性にテマリからその顔を奪いたくて、シカマルはテマリの手を引いて木から飛び降りた。


「 う、わっ 」

突然のことに反応し切れなかったテマリは、バランスを崩す。

シカマルがその行動をとったことより、自分がこんな簡単に驚かされるほど油断していたことに驚いた。
普段のテマリならこんな簡単に手をとられたりしない。・・・こんなこと人に話したり、しない。


バランスを崩したテマリを手を握っていないほうの手を背中にまわして支える。
自然と軽く抱きしめる形になる。


「 なん、だ 急に 」


心臓がうるさいのは、驚いたせいだ。視界が揺れたのは、枝が揺れたせい、だ。
そう自分に一生懸命言い聞かせて。

テマリはシカマルの手を振りほどこうとする。シカマルは少し腕に力をいれて、ゆっくり口を開く。


「 んなこと、ねぇよ 」


「 何がだ 」


「 汚れてなんか、ねぇってこと 」


テマリはこの言葉をきくなりおとなしくなった。手を振りほどくこともせず、おとなしくシカマルに抱かれている。
抱かれるというほどでもないくらい、添える程度の手だったが。

軽く触れている背中が、背中に添える手が、強く握られた手が、あつい。
顔も・・・のどが、あつい。



「 ・・・なぜ 」

「 目 」

「 目? 」

「 その色。キレイだし。 」



テマリは思わずシカマルの顔を見る。目は驚きで軽く開かれている。
シカマルの顔は、ほのかに赤かった。



「 そんなの、理由になるか。 」



テマリはまた顔を戻す。きっと、泣きそうな顔をしているだろう。
情けない顔を、見られないように。




「 ・・・それに、そうやって思うってことは お前は少しでも胸を痛めたんだろ? 」




先ほどより大きく、目を見開く。顔はそのままに。それはシカマルが背中に回した手に力を入れたから。


テマリ肩と、シカマルの肩がぶつかる。丁度、テマリのあごがシカマルの肩に、のる。
いつの間にかうまった身長差。もう、ほとんど同じくらいか。

今になってようやく気づく。もう、抜かれるのも時間の問題だな。次あうときは私より高くなっているかもしれない。

次・・・?何当然のようにそんなこと。次、なんて。あるとは限らない。こいつと会うのも、いつが最後になるかわからない。

今が最後かもしれないし、また、会えるかもしれない。
・・・会える、か。まるで 会いたいみたいだな。


さっきより触れ合った体がひどく熱をもつ。心臓が鳴り響く。触れた胸から奴の心音も聞こえる。
少しはやい、か。もしかしたら私の心音も奴に聞こえてしまっているかもしれない。


私の心音に、奴の心音が、まざる。
音が、ひとつになる。




「 慣れないんならよ、これから慣れていけばいいじゃねーか。 」




これから、なんて。当たり前みたいに。そういった奴は私を解放して。少しだけ、ホントに少しだけ、その熱が名残惜しかった。

ああ、この声にも。この里の この人、の 優しさにも、慣れて生きたい。

そう思ったら急に胸がすっと軽くなった。不思議と胸の痛みは消えていた。


「 ああ・・・そうだな 」


目を閉じて微笑んだその顔はひどく大人びてて。・・・すごく、キレイで。

ああ、俺ってガキだな、って思ったけど、
さっき見たいな哀しげな顔じゃなかったから、なんだかすごくほっとして。

俺までつい、微笑んじまった。

あいつみたいに大人びてないかもしれねーけど。なんかすごく自然にもれた笑みは、少し
新しい気持ちで俺を包んだ。

もっと、いろんなコイツの笑顔を見てみたいと、不覚にも思ってしまった。


「 ・・・ありがとな、奈良 」

「 シカマルでいいって 」

「 ・・・じゃあ、シカマル 」


その笑顔もまた、ほら、さっきとは違って。無邪気な子供みたいに。

ああ、本当に。

あんな哀しい顔はもう嫌だけど。

お前のいろんな顔をみてみたいから。

哀しい顔したらまた俺がそういう笑顔にしてやりたい。

なんて、

本当に不覚にも思ってしまった。



「 シカマル 」

「 ああ? 」

「 何か 甘いものが食べたいのだが 」

さっきとはうってかわっていつもの声をだす。少し低くて、耳障りのよい、澄んだ声。
もっと聞いていたいと、思ってしまう、その声。


「 あー・・・メンドクセーけど案内してやるよ 」

「 本当か?! 」


ほら、また。
そうやってコロコロ表情変えて。そんなふうにうれしそうに笑って。
そんなふうに笑うお前が見れるんだったら
メンドクセーなんて、実は思えない。


この感情に、気づいても。
まだ名前は気づきたくない。

メンドクセーことになっから。


こんなメンドクセー感情だけは絶対もたないって決めてたのに。


ああ。 本当に。


めんどくせー・・・。














なぁ、シカマル。


優しいけれど、嫌いじゃないよ。


この里も、 ・・・お前も。






































テマリは色々抱えてると思う。

2006.8.02