ライバルは父













明日はあまり天気は良くなさそうだ。


火影様への報告も済んだことだし、一晩休んで帰ろう。
宿はとってないからどこか適当に休めるところを探さなければ。
迷惑かけるわけには行かないと、火影様には宿を取ったといってしまったし。

そう思って火影の部屋を出る。「失礼しました」といって扉を閉める。
いつもはそこで見る黒髪は見えないはずだった。
今日は見送りも呼べないような急な訪問だったから。
いや、呼べないようにした、というのが正しいかもしれない。

砂の抜け忍の始末で、つい夢中になって木の葉の領域まで達してしまったから、敵意はなかったことを伝えにきただけだ。
しかし、まあ、この返り血だらけの姿でうろうろするのも気が引けたから(しかも砂の額宛をして)
夜中になるまで里へ入るのは待った。


ところが、テマリの予想に反して扉を閉めて振り向いた先には
いつもの見送り役のシカマルと同じ、ひとつに束ねた黒髪と、漆黒の瞳が、見えた。
少々高い位置にその目があることと、顔に走る戦の後が、かろうじてシカマルではないことを認識させたが、あまりにも似ている。

「 お。お前さんは 」

テマリの顔を確認すると、その男はきつく縛っていた顔を緩めておとぼけた声をあげた。

「 あん時世話になった… 」

「 砂のテマリと申します。 」

あん時、とはおそらく私がシカマルを助けたときのことだろう。この男と会うのもそのときぶりだ。
病院で会ったこの男はおそらく…

「 うちの息子がどうもお世話になってるようで 」

シカマルの父君だ。
にかっと笑ったその顔は、シカマルよりもおちゃらけた性格をあらわすような子供っぽい顔だった。
しかし、わかる。この男は、強い。
全身から感じるチャクラの質。
シカマルから感じるものととてもよく似てはいるが、任務帰りのせいか、多少なりともピリピリしたものを感じる。
そういえばよく見るとシカクもところどころに傷を負い、返り血を浴びていた。

「 それで、こんな夜中になんで砂のお嬢さんが? 」

「 任務中に誤って木の葉の領域に抜け忍を追い込んでしまったので、火影様に報告を 」

「 ほぉ、そりゃ大変だ。 」

「 大丈夫です。始末は済んでいますから。 」

私がそういうとシカクはあごに当てた手を軽く浮かせて少し驚いた顔をした。
なんだ?当然だろう。失態は残すわけにはいかない。

「 …お嬢さんそれで、今日はどちらへ? 」

「 宿に 」

「 とれたのか 」

「 …これからです。 」

なぜかこの男に見られると嘘をつけない。目が、やつに似ているからか。

「 これからかー。そりゃぁちょっと難しくねーか? 」

「 無ければ無いで問題はありません。 」

なるべく早くこの男から離れたい。そう思って話を済ませようとすると予想に反してシカクはテマリの腕をつかんだ。

「 そりゃよろしくねぇな。女の子を野宿させるわけにはいかないしな。 」

シカマルの男だ女だうるさいところは父親から譲り受けたんだな。

「 …何も野宿するとも言っていません。それに、私は忍です。 」

心配には及ばない。離せ、かかわるな、という意味をこめてテマリはシカクを強く睨んだが、シカクは嬉しそうに口に笑みを含んで大声で笑った。
ワケがわからない、といった顔でテマリが眉間にしわを寄せる。
シカクは腹を抱えたままテマリを見つめなおした。

「 …気に入ったぜ、嬢ちゃん。今夜はうちへ泊まっていきな。 」

「 …は? 」

「 そうと決まったらさっさと報告すませて帰るかー 」

シカクはくるりと向きを変えて火影室へ向かう。テマリが呆れてシカクをしばらく見つめてからその場を去ろうとすると、

「 …っ!? 」

「 こーら、ちょっと待ってろよ 」

まさかシカマル以外にこの技をかけられることになろうとは。
影に縛られたままのテマリを残して火影室に入ったシカクは3分もしないうちにでてきた。

仕方なく街を並んで歩く。おかしな組み合わせだ。

「 …本当に、結構ですから 」

大体、シカマルの家になんて泊まれるか。シカクいわく、今夜はシカマルは任務でいないそうだが。
だから安心しろ、といわれても。
すこし安心したような、すこし、本当に少しだけちょっとがっかりしたような。
がっかり…?何をいっている。気のせいだ。

「 そういうなって。それにそんな格好で宿を取らせてもらえると思うか? 」

…それを言われてしまっては少し、痛い。
確かにこんな返り血だらけの他里の、しかも砂の、忍を夜中にとめてくれるような宿主がいるかどうか。
テマリが反論できなくて押し黙ると、シカクはいかにも楽しそうにくっく、と声をあげた。
それが気にくわなくてテマリが睨むと、シカクは悪い、悪いと平謝りしてまた歩き出す。

「 いーから、たまには人に甘えることも大事だぜ? 」

「 … 」

人に甘える、か。
木の葉の里ならではのセリフだ。

けれど、なんだか
自然と笑みがこぼれる。

甘いところは父親ゆずりか。
…優しいところも。

「 いいね、その顔。 」

優しく笑ったその顔は、どこかあいつを思い出させるような大人な、顔。
ああ、親子だ。そう思うくらいよく似ていた。

でも、何か違うんだ。
あいつのときと少し、違う。

胸の、動揺が違う。


「 さ、ついたぜ 」

話しているうちにどうやら奈良家についてしまったらしい。
テマリは驚くと同時に少しあせったが、もうこうなっては彼はきっと譲らないのだろう。
仕方なく、お世話になることにした。


「 おかえり…あら…テマリちゃん 」

「 こんばんわ 」

「 母ちゃん、今晩この子泊めてやってくれ 」

「 すみません 」

「 それはかまわないけど…今日はシカマルいないのよ? 」

「 だから だろ 」

にやっとシカクが笑うとああ、とヨシノさんも意味深に笑う。…何をたくらんでいるんだか、この夫婦は。

「 突然、申し訳ありません。お世話になります。 」

「 いいのよ、そんなかたくならないで! 」

「 とりあえず、風呂にでも入ってこいや。気持ち悪いだろう。 」

シカクはテマリにむかってバスタオルとTシャツと短パンを投げた。…男物に見える。しかし、シカクの物にしては小さいぞ。

「 シカマルのだけど気にスンナ☆ 」

いや、気にするって。ていうかそれが一番気にするって。なんだそのウインクは。
しかし、一泊させてもらえるのだから文句など言えない。
…血だらけの服を洗いたいのも事実だし、血だらけの服で、木の葉の連中に会いたくない。
見られたく、ない。汚れた私を。

そんなふうに考えていると、シカクがずかずかと近づいて、テマリの頭をぐしゃぐしゃとなでた。

「 ?! 」

「 細かいこと気にしないで、ほらさっさと入ってきてくれ。俺も入りたいし、な 」

にかっと笑って、テマリの背中をおして風呂場に押し込んだ。
きっとテマリの考えたことを少なからず読み取って、それで…。

本当に、似ている。













「 ありがとうございました。 」

風呂上りのテマリは勝手にシカクが貸したシカマルの服に身を包んでいた。
そんなに変わらないと思っていたのだが、やはり男の体とは違うのだとよく、思った。
Tシャツは大きくて肩がでるし、ズボンは紐を限界まで締めないとストンと落ちてしまうのだった。

「 そんじゃ俺も入ってくるかなー 」

タオル片手にシカクは去っていく。
テマリが縁側でガシガシと頭を拭いていると、食事の支度が一通り終わったのか、ヨシノがでてきた。

「 あら、ダメよテマリちゃん。そんなに乱暴にしたら髪が痛んじゃうわ 」

「 あ、はい。すみません。 」

テマリを座らせて、タオルを受け取ると、ブラシでテマリの髪をとかしながらヨシノは優しくドライヤーをかけ始めた。

「 あの、今日は本当に急にすみません。 」

「 全然いいのよ。娘ができたみたいで楽しいし。 」

シカマルはやらせてくれないのよーといいながらヨシノはテマリの髪をいじる。
テマリはゆるく吹く風に頬をなでられながら、母親がいたらこんな感じだったのだろうか、とふと思った。

「 自分の家だと思ってゆっくりしてね。 」

「 …自分の家ではこんな穏やかな気持ちにはなれない、な 」

自嘲気味に笑ったテマリを、ヨシノは心配そうな顔をして見つめた。

以前木の葉の観光帰りに奈良家によったテマリについて、ヨシノはとても自分と似たものを感じていた。
だから、シカマルから色々聞いている。
父親が殺されたこと、父親によって化け物を取り付かされた弟、その弟を生まされることで命を奪われた母親。
風影の長子としての、立場。厳しい砂の里という環境。
幼い頃からきっと、この子には心が休まる暇が無かったのだろう。

ヨシノはテマリの横にひざ立ちをして、テマリの顔をを優しく自分の胸に寄せた。

「 …辛くなったら泣いてもいいのよ。女の子なんだし 」

「 …でも 」

「 いいのよ、私がテマリちゃんのお母さんになってあげるから 」

テマリはその言葉にひどく驚いてヨシノを見上げる。キレイな翡翠の瞳は大きく見開かれていた。
ヨシノは優しく微笑む。

「 …いいのよ。強くなくても 」

「 …! 」

「 そ、 」

いつの間にかそばに寄ったシカクがテマリの頭に手をポンと置いた。

「 まだ、子供なんだし甘えればいいんだよ。 」

それでも押し黙るテマリをみて、少しシカクは困ったように眉をよせて、笑う。

「 甘えられなかったら 吐き出せばいい。 ぶつかればいい。 当たってしまえばいい。

  うちの息子、使ってくれてかまわねぇからよ。

  誰だって忍である前に人間なんだ。…忍である前にお前さんは立派な女の子なんだから。
  
  頑張らなくてもいいんだよ。頑張れないときは。 」


テマリが驚く。頑張らなくてもいい…って何? そんなこと言われたことない。
吐き出す?って何? 私…

「 休んでも、いいのよ 」

ヨシノがテマリの心を読んだかのように言葉を続けた。テマリの表情は驚いたまま。
シカクがふっとタオルをもちなおしてテーブルへ向かう。

「 飯にしようや。冷めちまう。 」

「 そうね。テマリちゃん。 」

差し伸べられた手を、以前の私なら見ないふりをしていたかもしれない。
暖かさに触れるのが、怖くて。
なくなってしまうのが怖くて。
だけど、あまりにもこの暖かさが心地よくて。
…あいつのいたこの環境に触れてみたくて
ヨシノの手に、おそるおそる触れる。ヨシノはすぐに握り返してきた。

「 さ、食べましょう。 」

「 …はい。 」


なかったはずの私の居場所が、増えていく。

変わった弟たちとの関係も、この夫婦の優しさも、木の葉の連中も、あいつの隣も
すべては、この里がくれた。

緑の里がくれた。

私に酸素をくれた。

呼吸が次第に楽になっていく。

生きていることが、楽になる。


まだまだこの暖かさには慣れない。

この暖かさのせいで胸が締め付けられるくらい痛むことも、ある。

だけど、求めてしまうのは














「 …なんでコイツがここにいるんだよ 」

翌日、任務から朝一で戻ったシカマルが見たのは、食卓でシカクと共にいつもの忍服で、当然のように朝食をとっているテマリの姿だった。

「 昨日うちに泊めたんだよ 」

「 あ?! なんで?! 」

「 なんでもいいじゃないの!それより早く手洗ってらっしゃい! 」

シカマルのことを無視して食事をとるテマリを半ばにらむようにしてじと目でみるとヨシノに追い立てられた。
手を洗ってもどると、すでにテマリは背中に扇をしょって、まさに玄関から出て行くところだった。


「 もっとゆっくりしていけばいいのに… 」

「 そういうわけには。昨晩は本当にありがとうございました。 」

「 またいつでも来いよ。 」

「 ありがとうございます。 」

いつの間にかうちとけたふうな両親とテマリとのやり取りについていけず、ぼうっと立っていると、ヨシノに睨まれた。

「 ほら!シカマル、早くテマリちゃん送っていきなさい! 」

「 はいはい… 」

「 はいは一回!! 」

「 ・・・はい 」

そんなやり取りをくすくす笑いながら歩きだすテマリは、心なしか少し穏やかな顔に見えた。

「 …シカマル。 」

「 ああ? 」

「 お前の親父さんはいい男だな。 」

「 …あっそ。 」

「 同じ顔でも随分と男前だ。 」

「 … 」

「 惜しかった。 もう少し早く… 」

「 20年 」

「 は? 」

「 あと20年、待っとけ。 」

テマリが驚いてシカマルの方を振り向くと、少し頬を染めてシカマルはそっぽを向いた。
その様子を見て、テマリはテマリとは思えないくらい上手に微笑んだ。
シカマルの漆黒の瞳が開かれる。


「 ”めんどくさい”、な。 」

すぐににやり、といつもの挑戦的な顔になったテマリに、シカマルはあわててほうけた顔を戻す。

「 …これだから 女ってヤツはよー… 」

「 なんだと? 」


そんなやり取りが響く早朝の木の葉の里は、とてもいい天気だった。










だけど 求めてしまうのは


お前が いたから


シカマル。


20年後、楽しみにしているぞ。


父上殿より いい男になれよ。












後日、シカクからテマリが一晩着たと聞いて、そのTシャツとズボンを着るに着れなくなってしまったシカマルがいた。







































前から書いてみたかったんです。シカクさんとテマリの絡み。
多分テマリはシカクさんはペースを乱されるのでちょっと苦手だと思う。
ヨシノさんはテマリを可愛がってくれそう。

2006.8.09