夏風邪















「 …なぁ 」

「 ああー? 」

「 今日は何かあるのか? 」


いつものように定例会議でやってきたテマリを宿までおくろうと、町を歩いているところだった。

ぽつぽつと続いていた会話も途切れた頃、珍しくテマリがきょろきょろしながらシカマルに声をかけた。
言われて見ればなんだか町の人たちがいやにせわしく動いているような気がする。
板を運ぶ人や、食材をもっていたり、とにかく行ったりきたりしている。
しばらくその様子を眺めてから、シカマルの脳裏にうっすらと数日前の記憶が思い当たった。

「 祭り、だ。 」

「 祭り? 」

「 ああ、夏の終わりにやる、木の葉の花火祭り。 」

数日前にいのが今年も行こうといって騒いでいたのを覚えている。
去年は家でゴロゴロしていたところを半ば無理やり強制的にいのに引きずられて行った。
途中で帰ったが、いのは「つれないやつねー」となにやら文句を言っていた(様な気がする。)

そもそも、俺は人ごみは好きじゃねぇっつの。
何年も一緒にいるんだからその辺いい加減にわかれっつの。
今年はどうやって逃げようか…

シカマルが勝手に去年の記憶をたどっている間、テマリは何も言わなかった。
ただ、少し歩く速度が遅くなったように思う。
テマリがシカマルより数歩後ろになったころ、ようやくテマリは声を発する。


「 …花火、か 」


独り言のように発せられた言葉だったが、シカマルは一気に思考を呼び戻された。
そういえばコイツもあんまり人ごみとか得意そうじゃねぇよな。

そう、思っていたのに。
ポツリとつぶやいたテマリの声色には少し上ずったような、そぅっと気持ちを抑えて発したような不思議なものだった。
まるで


「 …私は花火というものを見たことがない。 」

「 ・・・・・・は?! 」


予想外の発言にシカマルは思わず声を上げる。それに対してテマリは至極真剣に返答した。

「 当然だろう。砂には祭りというものがないし、
  第一花火なんて砂埃がまって、とてもじゃないが見れない。 」

それを聞いてシカマルは「ああ」と納得する。
「話なら聞いたことがある。」とテマリは付け足した。
そういや、そうだよな。なんて頭で納得の言葉を復唱して、再びテマリを見やる。
…ああ、だから

― 花火、か ―

少しだけ、見たいのかもしれない、と思ったのか。

それに気づくと、とたんにメンドクサかった、と思い出していた去年の記憶が
コイツだったらこの店は気に入るかもしれない、あの店に行きたがるかもしれない
…あの浴衣が似合うかも、しれない。と
テマリ基準に変わった。


「 行くか? 」

「 え 」


言おう、と思う前に口がすべる。できるだけなんでもないように言えていただろうか。
テマリの返事を聞く前にシカマルは先へ歩き出す。
しかしそれはいつもと同じ宿への道で。
反対方向にかけていく浴衣姿の子供たちをみながらテマリは思う。

行きたそうにしている相手には誘いの声をかけるのが一般的な感覚だよな、…そうだ。
別に私だから、とかじゃなくてこいつは誰にでもこうやって優しくするんだ。


「 いや、いい。 」


といいつつ、まだ頭の裏で行きたいという思いが残っている。
そうだ。宿まで行って、別れてから一人でそっと見に行けばいい。
火影に許可をもらおう。

「 悪い。書類をひとつ忘れてきた。 」

そういって、火影に許可をもらいに戻って、また宿まで行って、別れて花火が始まる頃に
そっと宿を抜け出せばいいんだ。

シカマルは珍しいな、といいながらも火影室へと方向を転換してついてきてくれた。
いや、任務なのだから当然だ。

…最近、シカマルの行動にいちいち理由をつけることが多い気がする。
なんだか自分に言い聞かせるように。







火影室へ戻る。聞かれないようにシカマルには建物の外で待ってもらった。
「暑いじゃねーかよ」と文句は言っていたが、言うだけでおとなしく待っている。
火影に祭りというものを見学していきたいと述べると火影はいつものように豪快に笑って
「 いいんじゃないか?ゆとりができたら砂でも祭りができるようにお前が祭りを味わっていきな!木の葉の祭りは最高だよ! 」
といった。あまりに大声でいうので部屋の外のものにも聞こえたんじゃないかと思う。
シカマルを建物の外で待たせて正解だった。


疑われないように祭りの参加許可の書類と、無地の紙を何枚かもって入口を出た。
シカマルは「早かったな」といって私ができるのを待ちきらずに歩き出す。
いったり来たりしているせいか、いつもより時間は遅くなっていて、もう外は薄暗い。


しばらくすると太鼓の音や、特有の笛の音が聞こえてきた。
丁度火影室の建物のそばのほうがうっすら明るかった。
「お、始まったな」と後ろ向きに歩きながらシカマルはそちらを覗き込むようにしていた。


「 …ここで、いい。 」


宿まであと数十メートル、といったところでテマリが立ち止まった。
シカマルは二歩ほど前で、ふりかえる。
テマリの後ろには祭りの明かりが見えて、逆光になってしまっている。
テマリの顔はうつむいてることもあってよく見えないが、四つに結わいた特徴ある髪色が、祭りの光を浴びて金色に輝いている。
キレイだと、素直に思った。
…髪が、だ。


「 お前も祭りへいくんだろう?始まってしまったから、ここで、いい。 」

「 いかねーよ。めんどくせーし。
  それにいつも任務は最後までまっとうしろ、っていうのはお前じゃねーか。 」


テマリの顔が見えない。
声はいつものままなのに。
生ぬるくふいていた風が夜の冷気をおびたものに変わっていく。
夏が、終わる。


風が恋しい、夏が 終わる。



シカマルはしばらく何も言わないテマリを見ていたが、また前をむいて宿の方に歩き出した。
テマリはそれをみて、続く。



そのときだった。

ヒュー・・・・

その音に驚いてテマリがふりかえる。それと同時にパァン!!と夜空に花が咲いた。



「 あ、花火も始まったか 」

「 …あれが、花火か? 」

「 ん?ああ。キレイだろ? 」



毎年見ているものだが、やっぱりキレイに見える。
テマリはこちらを一度も振り返らないで次々と打ち上げられる花火を見上げている。
シカマルはゆっくりとテマリに近寄った。
横に立ったシカマルに気づきもしないで、テマリは花火を見続けていた。



「 …ああ。 すごく、キレイだ… 」



見上げたまま、テマリは自然と言葉をこぼした。
その、なんともいえない顔に、シカマルは思わず息を呑む。
感激のためか、驚きのためか、軽く開かれた翡翠の瞳には花火の光がキラキラと映りこんで、
砂漠に住んでいるとは思えない真白いテマリの頬は、ほんのり高潮している。
そして、口元には滅多に見ることのない、テマリの微笑みに近い笑み。

夜空にさくは、色とりどりの花火。毎年みていても、キレイだと思う。
夜にさく花は


黄色の小さな砂漠の花。


今まで何度かみているけれど、
そんなに綺麗だ、なんて思ったりしない。

だけど、

花火が打ち上げられる音が何度も何度も右の耳で感じられるのに。

首が、動かない。目が動かない。
体のスイッチが抜けたように、
けれどしっかりと
脳に焼きつく 黄色の花。





「 来い 」



花火に魅入るテマリは、シカマルがテマリのことをみているのにすら気づかなかった。
だから、突然シカマルがテマリの手を引いて走り出したのに、思わず転げそうになった。


「 どこいくんだ、 」

「 いいから 」


なんだか、無性に
今、コイツを
あの場所に連れて行ってやらなければ
絶対に後悔するって
そう思って。
らしくもねぇ、
行動が先に出た。


「 ココ…? 」

「 俺の特等席。…そんでもって 」


指差す先にはさっきよりも大きく、前面にさく花火。


「 花火を見るのに絶好の場所。 」

「 すごい… 」



テマリはそのまま座りもせずに花火に魅入っている。
そしてそんなテマリにシカマルは魅入っている。
認めたくないけど、でも、確かに




「 キレイだな、シカマル。 」


「 …ああ 」



綺麗だ。


この黄色い花が咲かせる笑顔は、綺麗だ。



ふりむいて笑ったテマリに、シカマルも微笑み返す。
そして最後の花火がパラパラと散っていくと、テマリはそれらが完全に見えなくなるまで、ずっと空を見ていた。










「 …花火も 」



夜空が闇を取り戻すと、テマリはシカマルに背をむけたまま、口を開く。
花火のせいで忘れていた夜風が頬に冷たく感じた。




「 なくなってしまうと寂しいから

  あんまり好きじゃ、ない。 」





あんな顔してみてたくせによくそんな嘘がつけるものだ。
そう思いながらふと、気づく。

握られたままだった二人の手。

テマリが握り返してきた。
逆にシカマルの手が驚きで緩む。

シカマルはテマリを見つめたまま。テマリもシカマルの目を見る。



花火、 も



IQ200のこの男は裏に秘めた意味に気づいただろうか。
とても私を負かせたとは思えないほうけた顔をしている。

しばらくするとシカマルの頬が少し赤くなって、あいてる手で口を隠して、顔を背けた。


…気づいたのか?
気づいて、しまった?


そう思ったとたん、言うんじゃなかった、とテマリの顔まで赤くなって、うつむいてしまった。


でも、手は握られたまま。

先ほどは冷たいと感じた夜風がこいしい。
顔があつい。

シカマルが手に力をこめて、手を握った。

それに反応してテマリが顔を上げると、シカマルは同時に歩き出す。



「 おい…? 」

「 …来年は 」

「 ? 」

「 休み、とっとけよ。浴衣着れるだろ? 」

「 ! 」



めんどくさがりのお前が来年の予約を入れるなんてな。
明日は雨かもしれない。
でも、いいさ。
来年のこの日が晴れるなら。



花火が終わってしまっても、

また次を、見ればいい。

また、会えば、いい。




夏が過ぎていく。

けれどまだまだ 風は恋しい。

熱を持ってしまった俺の心に

お前の風が、恋しい。























































ソラコ様へ捧げます。相互リンク記念SSです。
リク内容が「ほのぼのしててほんのり甘めなもの」とのことでしたが…
ご期待に添えなくてすみません…私的には結構甘めにしたつもりだったのですが…
二人とも別人みたいになってますね…すみません。
それでは、ソラコ様遅くなってすみません、ありがとうございました!

2006.8.28