※2007年テマリさんBithday 小説「真昼月姫」と、その前日話「空時計」の続きです。
砂
Bithday shikamaru
キンモクセイの香りがする。
甘くて鼻につく、正直あまり好きではない香りだった。
会ったのは9月の自分の誕生日よりも前。しかもその時に彼女にも祝いを渡した。
だから、次会う頃にはきっとこの香りも失せていて、砂漠育ちの彼女には辛い、昼の寒さの時期がきているのだろう。そう思いながら、特等席で栗を食べていた。
普段は食べたりしないが、ちょうど旬である今の時期には里内でやたらと売られていて嫌でも目につくのだ。そして、何故だか買わなきゃならないような気がして、買ってしまう。
ひとつ、ふたつ、とつまんで、その甘さに渋いお茶がほしくなって、じじくさいな、なんて声が聞こえた気がした。「はい、お茶」そう高いすんだ声がして、隣にお茶が差し出された。
さらりと長い前髪をあげながら、いのが笑う。今飲みたいと思ったでしょ?と後ろからチョウジも笑った。それに軽く笑みをつくって、茶をいただく。
いのが煎れるお茶は自分が飲むときの癖か、薄目で味気無い気がするが、今日のお茶は好みの苦味の強さだった。隣に広げてあった栗をみて、珍しいわねと言いながらかきわけて座る。その横にチョウジも座って、かきわけながら片手にとった栗を、数個チョウジに渡して、自分も皮を剥き始めた。二人が栗を食べるのを、なんとなく見つめていた。渋い茶を口に含みながら、甘い栗の香りを感じて。
空が高い。
そんな話をした、ほんの二週間ほど前を思い出す。
空の砂時計はまだあのまま机においてあって、彼女に渡した砂時計がどうなったのかは知らない。
願うなら、少しでもそれを、無事に任務を終えた夜にみていて欲しい。
「 あ、そうそう。はいコレ。 」
そういっていのが出した親指くらいの小さな布。丸めて口をふさいである。
なんだ?と問うと、「知らない。火影様から預かったのよ。」と、いのは栗の続きを口に放り込んだ。しばらく手でいじりながら持て遊んでから、口を縛る紐に手をかけた。布は真四角に広がって、その中心には黒い砂が入っていた。砂の隙間から、なにやら数回みた覚えのある几帳面な文字がちらりと見えて、心が一瞬はずむのを感じた。
現金なものだ、と思いながら、あえてまた口を縛る。
「なんだったの?」といういのの手から栗をひとつもらって、「多分お返し、かな。」と答えた。
いつもより楽しそうな顔をしながら、幼馴染は階段をおりていった。黒いちょんまげが見えなくなるのを見送ってから、珍しく残されたお茶を口にふくんで、いのは忌々しげに、苦、と眉間に皺をよせた。
家に帰る。
手を洗いなさいよ、という母ちゃんに生返事をして、部屋の机にその小さなかたまりを置いた。
そのまま手を洗いに一階に降りて、居間のテーブルにまたも栗が置いてあるのをみて、少し笑った。部屋に戻ってベストを脱ぎ、ラフな格好になってから、包みを再び手にとる。さっきよりも、かたく結んでしまった紐を、弾けてしまわぬように丁寧にほどいた。不安定な掌で少しこぼれる砂に注意しながら、再び机に置いた。少しずつ、砂をよけると、中心に文字がみえた。
砂でも珍しい砂だ。
今年私はこの砂を飲んだ。昼はお前の髪色ににている。
夜は、みてみろ。
という、要件のみの文だったが、珍しい砂とやらを送ってくれたという点だけで、これは祝の品だと思うことにした。さっき外でみたときは、真っ黒で、光があたると少しマットな質感の反射をみせたが、部屋の中が暗いせいか、幾分光沢があるように思う。ふと目に写った空の砂時計を手にとって、砂を入れてみたが、少なすぎるようだった。
逆さにすると、すぐに砂は下へと滑り落ちてしまう。
まるで俺と女の、経験分の違いのようだと思った。
「 あら、珍しいわね。砂時計なんて 」
ノックもせずに怒鳴りながら部屋のドアを開けた母ちゃんは、目の高さまで上げていた砂時計を発見された。
「 あー…、なんか、お返し、らしい。 」
お返しは中身の砂だけだけど。それをいうと砂時計はどうしたのかと聞かれそうだったので(説明すんのはめんどくせー)あえてそうは告げずに母ちゃんの近くに差し出す。
ちらりと机の上の広げられた布を見て、母ちゃんは少し(だけ、)優しく笑った。
「 テマリちゃんね。元気にしてるかしら 」
文字を見ただけでわかったのだろうか。それともお返し、という言葉で想像したのだろうか。
ともかくも相手を即座に言い当てられ、少しばかり動揺した。母ちゃんは砂時計を手に取る。
「 あら、これ緑砂じゃないの? 」
「 りょくさ? 」
思わぬ言葉に、即座に聞き返す。母ちゃんは満足げに笑って「知らないの?」といった。
受け取った砂時計を見つめてみる。どのあたりが”緑”なのだろうか。
「 太陽の光を含ませると、夜に月明かりで緑に光るのよ。 」
夜はみてみろ、
わざわざ答えを書かなかった女の意図を無視して伝えられてしまった解答に思わず「へぇ…」と自分でも間抜けだと感じる声が出た。
間抜けな声出してないで、おつかい行ってきて頂戴。とメモを置いていった母ちゃんを見送りながら、洒落た物を送ってきたものだ、と少し女に感動する。
メモを右手にとって一通り眺めてから、左手で窓際に砂時計を置いた。カーテンを開けて光を含ませる。
部屋の入口で、ふりかえる。自分らしくも無く、夜が少し待ち遠しかった。
そこで初めて、部屋の電気もつけていなかったことに気づいたのは、さっきの声よりも間抜けだったかもしれない。
それから晩飯を食い終わるまであえて部屋には戻らなかった。
風呂も済ませて、ゆっくり階段を上る。食事のときには母ちゃんが父ちゃんに言ったのだろう、「いつのまに誕生日プレゼントなんかやりあう仲になったんだ?えぇ、シカマル」と鬱陶しく首に絡み付いてきた。(もちろん無視だ)
そっと、扉を開く。
迷わず窓際へと泳がせた目には、月光で反射した光しか入らず、真っ直ぐ砂時計を手にとる。
持ち上げて目の高さにそろえると、確かに光の隙間に緑っぽい色が見える。ガラスに反射する光が邪魔で、砂をもう一度取り出す。
およそ半月前にしたのと同じように左手にこぼさないよう乗せる。まとまっていると黒に近いが、少し広げると確かにそれは緑色をしていた。
否、緑というよりは、深い深い翡翠色。
( …狙ってんのか? )
それはとても女の瞳の色に似ていた。翡翠とは言い切れない深い色をした、あの色に。
握り締めた。前のように零すことはせずに。
砂時計に戻し、掌に残っていた砂を綺麗に集めてひとつまみ分になったそれを、上から口へとそそぐ。
不思議とむせずに飲み込めた砂は、ずっしりと俺の腹にとどまっているかのような重さを感じた。
「 …毒とか入ってねぇだろうな 」
飲み込んでから誰にとも無くつぶやいて、カーテンを閉める。
自分の顔が、ひどくにやけているのがよくわかった。
机の上に戻した砂時計を見つめて、次に女がくるのはいつだろうと、考えた。さぁ、なんと言ってやろうか。
…いつか、丸ごと飲み込んでみせる。
本物の緑色も。
実は昨年書き上げてUPしそこねたものなのですが…一年の空白はなかったことにして、笑
シカマル、お誕生日おめでとう。
2008.9.22 ![]()