※2007年Bithday記念の「真昼月姫」を先に読むことをオススメします。





空時計






Bithday temari 「真昼月姫」前夜










9月初旬

先日確認した任務表によると、次あいつがくるのはちょうど自分との誕生日の中間あたりだった。
約一ヶ月の間を経て、女と俺は産まれている。実際には一月プラス3年の月日があるのだが。

砂では誕生日は特別祝うものではないらしい。
昨年の彼女の話で知った風習の違いは、妙に里が違うということを意識させる。彼女の里では木の葉のように、バレンタインやクリスマス、七夕、夏祭り、など年間行事はほとんどないに等しい。
忍びの隠れ里としては当然なのであろうが、淡々とした空気が、あの里にはあるような気がして、妙に「自分たちとは違う」と、思ってしまうことがある。

( だから、なんだと )

里が違う。
そんなことはわかっているし、里が違うから彼女は彼女であり、俺の知りうるところにあるのだ。

話を戻すと、砂では誕生日に任務を休むことも、周囲から特別大袈裟に祝われることもない。
それはそれで、二日連続で毎年行われる幼馴染みとの馬鹿煩い誕生会が、ひどく面倒に感じることの多い(しかし嫌な気がするわけでは決してない)シカマルにとっては少しばかり羨ましいことではあるが、それでも少し寂しいものだなと思う。

ひとつだけ、他の日と違うことをするといえば、砂を飲むという行為。

それが意味するところは、自里に産まれたことを再認識させることか、宿業を感じさせることか、感謝させることか、わからないが、とにかく自里の象徴であるさらさらとした砂を、その日の任務が終わったあとにひとつまみ飲むのだそうだ。出来るだけ夜を選んで、里の誰にも見られないように一人で。

だから砂色の髪になったのだろうか。と思いながら、シカマルはぼんやりと手元の砂時計をみた。

彼女の髪に、限りなく近い色。
特に月夜には見つめずにはいられなくなるほど、シカマルの中の特種な認識を膨らます。見慣れぬ色、見慣れた色。

シカマルは砂時計を窓枠においてみた。今日は雲があまりなくて、部屋には不思議なくらい月明かりがさしこんでいた。時を刻み始めた砂が、きらきらと輝く。

砂に含んだ月光でも飲んでいるのかもしれないな。
夜の住人になるために。月光で輝く存在になるために。

シカマルは窓枠においていた砂時計を手にとる。木の細工が施された天板とも底ともいえるそれをはずすと、中心のガラス一身になって、余計に儚い光を反射させた。そのガラスに小さな穴を開ける。ちょうど、真ん中の通過点よりも一回り小さいくらいの穴を。
そしてより月光に近い位置、窓の外に両手をつきだして、右手に持ったガラスの砂時計から、左手に砂をさらさら流す。
じき左手に出きった砂は、思っていたよりも多くて、それでもすっぽり掌の中心に収まってしまうほど、小さかった。

ただ単純に、飲んでみたいと思った。いや、飲むというよりは口に入れて見たかった。

任務中にあやまって口に砂が入ったときには慌ててはきだすというのに、なんとも矛盾した感情だ。右手のガラスを部屋におくと、そのまま左手の小さな山から塩をつかむように、一掴み砂を掬った。
…ああ。
つまんだ先からこぼれていく砂を綺麗だとも思いながら、もったいないと、指に力をこめて、そのまま口へ運んだ。
もちろん、体は正直なもので、入れた砂でむせた後、普段と同じようにペペッと反射的に砂をはきだすと、ホントに飲んでるんだろうかと思った。そして、足元の砂を掬って月夜に砂を飲む女を想像する。

正直に、みてみたいと、思った。

( 砂の者じゃねぇから、見れっかな。 )

などと思いつつ、左手の山を一度強く握ってから、少しずつさらさらとこぼしていった。
月明かりに反射して、女と同じ輝きは、シカマルの手からするりと溢れていく。すべて落としきると、掌にざらざらとした感覚が残っていて、シカマルはそれを払うことはせず、これくらいなら、と、舐めてみた。
じゃりじゃりと口の中に入った砂は、やはり心地好いものではなかったけれども、飲み込むより先にどこかへ溶けていった。

ああ、まるで

月の、光を。不死の魔力をとりこんでいるようだと思いながら、部屋に転がった空の砂時計のガラスと木の板をはめなおす。

そしてまた月へかざした。

女用の砂時計は明日、女が来る前にもう一度買いに行こうと思いながら、シカマルはただ、気の抜いた体勢で、窓に体を預けたまま、砂時計を見つめていた。

つきだしたままの左掌をみる。舐めとった後だけが、違った光を放っていて、風に吹かれながら散っていった砂は、もうどこへ行ったのかもわからない。

俺の知るところなんてこんなもんなんだろうな。

何が、ともなく、シカマルはなんとなくそう思った。

空の砂時計は、未だシカマルの机の上におかれたままだ。













拍手に載せていたものです。一応連作なのでこちらに再度UPしてみました。

2008.9.22