足りない   後編
















ああ、そう。

私は人殺しだ。

どうやっても、どうしても、あの優しい里とは、あいつとは、相容れない。



力が、抜ける。
がくんとひざがおちて地面に顔をぶつける、その寸前だった。


その、暖かい手に支えられたのは。


「 なっ・・・体が!! 」

「 影真似、成功 」


シカマルが私の体を支えて、いた。 優しい、その手で。 血に塗れた、私を。


「 テマリさん!! 」


後ろの草陰からサクラ、いの、キバにナルトまでが飛び出してきた。


「 お、まえ達・・・なん、で・・・ 」

「 話は後だ、しゃべんな。 サクラ、頼む。 」

「 うん! 」


そういってシカマルはテマリをサクラといのに渡すと立ち上がった。サクラがテマリの治療を開始する。


「 動かないでください、大分血が流れちゃってますから! 」


動かない体で視線だけを動かして漆黒の髪を追う。

めんどくさそうな猫背のまま、男はナルトとキバの間に立った。


「 なんだ、お前ら。 」

「 砂同盟国、木の葉の者だ。 」

「 ようよう!よくも我愛羅のねぇちゃんをやってくれたってばよ!! 」

「 こりゃあ倍返し決定だぜ?!なぁ、赤丸! 」

「 ワン!! 」


覆面をはずした男が口に笑みを浮かべる。次第にその笑い声は高く、大きなものになっていく。


「 何がおかしいんだってばよ?! 」

「 本当に、甘ちゃんだな、木の葉は。 」

「 なんだと?! 」

「 一度裏切られた砂を安易に信じて。その女を救うか?それも良いだろう。

  仲間ゴッコか?それも良いだろう。 」


全員がその男をきつく睨む。シカマルは一番前でいつもの表情のまま眉間にしわを寄せている。


「 だが、所詮 砂の忍は砂漠のごとく、すべてを死に追いやる。人殺しに過ぎん。

  とくに、その三姉弟は今までどれだけの人間の血を浴びてきたと思っている?

  優しい優しい木の葉の里に踏み込むには穢れた血なんだよ、そいつらは。 」


テマリが見えないようにギリリと唇を噛む。
そういうと男の後ろからクナイが飛んできてシカマルの影を切り離した。


「 うわっ!! 」

「 きゃっ!! 」


シカマルと、後ろにいるテマリに向かってきたクナイに、サクラといのが巻き込まれる。


「 サクラちゃん!! 」

「 いのッ!! 」

「 平気っ・・・ 」


腕から血を流しながらそれでもサクラは治療を続け、いのは私の体を支えてくれている。
二人は、私をかばってくれた。私を、かばって傷を負った。 
扇を握る手に力をこめる。


「 ・・・私たちの狙いはその女一人、その女を引き渡せばお前らのことはなかったことにしてやる。 」

「 んだと・・・?! 」


そうだ。ここで私がこいつらから離れれば、こいつらは巻き込まれることもない。
相手は中忍といえどもレベルは十分、上忍。他の3人も相当な手だれだ。
術から見るにおそらく血霧の里、霧隠れの抜け忍だろう。
こいつらに敵う相手かどうか。
わたしさえ、この場から離れれば。
余計な血を流すことも、・・・流させることも、しなくてすむ。
血を浴びるのは 私が、・・・私だけが、やれば いい。

サクラの治療のおかげで戻ってきた視界に奴らを捕らえる。このまま、走り出せば・・・。

今にも食いかからんばかりに歯を食いしばったナルトの前にすっとシカマルの手が伸びた。
その手は走り出そうとするテマリも制するかのように思えた。

「 よぉ、おっさん 」

「 シカマル? 」

「 木の葉がなんだって? 砂が何だって? 」

「 何? 」

「 どれだけ過去に人を殺してようが、それを忘れないからこいつら三姉弟は今、苦しんでんだよ。
  
  この里が今までどうだったから 相容れないとか、そんなんメンドクセーんだよ。 」

「 …何を、言っている? 」

「 ・・・今までがどうであれ、今は今だろ。だから我愛羅だって、今は風影として里を護るために頑張ってんだろ?

  だからカンクロウだって、・・・コイツだって、今を護れるように頑張ってんだろ?! 」


 ( ! )


思わず力の入った腹筋が痛む。だけど、シカマルの背中から、目が離せない。



「 シカマル・・・ 」

ナルトとキバが普段見せないシカマルの真剣な顔に驚いている。
普段怒鳴ったりしないシカマルにいのもサクラも、驚いている。



「 ・・・そうだろ テマリ 」



背を向けたまま、シカマルは小さく声を発した。テマリは突然の呼びかけと、聞きなれたその声が、聞きなれない自分の名前を読んだのに驚いた。
と、同時に、ふつふつと湧き上がってくるうれしい、という感情に目が熱くなるのを感じた。



「 ・・・―ああ・・・! 」


テマリのその声を聞くと、やっとシカマルは口にいつもの得意な笑みを浮かべた。
それを見て、キバ、ナルト、それに続いてサクラといのも笑みを浮かべる。


「 ・・・本当にくだらない 甘ちゃんだな!! 」


そういって男たちはシカマル達にむかって駆けた。






















「 ・・・ ここは・・・? 」


気がつくと真っ白なシーツと、真っ白な天井、右手には点滴が見えた。どうやら病院か?
そう思った刹那、


「 気ィ、ついたか? 」


視線とは逆の左方向から声がして、あわててふりかえるとそこにはところどころに白い包帯を巻いた漆黒の髪の男がいた。


「 ・・・私は・・・ 」

「 やっと終わったと思って見たら、気失ってんだからよ。ホント驚かせんなよな、めんどくせーから。 」


そういってめんどくさそうに頭をかくシカマルの腕の包帯から血が少しにじんでいるのが見えた。


「 ・・・すまない 」

「 お互い様だろーがよ。俺だって昔助けてもらってんだし。 」

「 しかし・・・ あれは命令だった。 」

「 俺だってそう言やぁ、そうなる。 」

「 ? 」

「 ・・・ったく、俺今日誕生日なんだぜ?しかも任務から戻ったばかりでよ。めんどくせーって思った。 」


そういうとテマリは申し訳なさそうにもう一度「すまない」といって俺から視線をはずした。
血の気のうせたいつも以上に白いほほが痛々しくて。切なそうに伏せたその目が、胸に痛くて。
言うつもりのない、言葉を続ける自分がいた。


「 ・・・だけど お前の名前聞いた瞬間そんなこと全部忘れて走り出してたんだから仕方ねーだろ。 」


驚いてふりかえったテマリの眼に映ったのは、今度はテマリから視線をはずした少し照れたシカマルの顔だった。
いつもの顔をもう少し、唇を尖らせたような、すねたような子供の顔。
思わずテマリの口から笑い声が漏れた。


「 ・・・んだよ。 」

「 いや・・・。お前今日でいくつになったんだ? 」

「 15だよ。あー、めんどくせー・・・ 」


そういってまた照れた顔を向こうへ向ける。
15、か。3つも年下のこの男があんなふうに私たちのことをみてくれているとは思わなかった。
こんな風に、私のそばにいてくれるとは思わなかった。



「 シカマル 」


「 あん? 」


振り向いたその顔に、
痛いわき腹を我慢しておこした上半身をよせて、唇に軽く、触れた。
触れるだけの、軽い、キス。


「 なっ・・・ 」

「 誕生日プレゼントだ。もらっておけ。 」


そういってテマリはあのときのようにニシシと笑って見せた。


  ―ああ コレだ。

俺が欲しかったもの。

物足りなかった、もの。





「 足んねぇよ 」


シカマルはテマリの傷が痛まないように優しく再びベッドに寝かせて、驚いたテマリの手を押さえつけて
自分もベッドにのりかかる。ギシ、と鈍くかたい病院のスプリングがきしむ。
そして、今度は息もできないくらい 深くて、長い、キス。


「 ん、・・・ 」

息が、できない。窒息しそう。
少し強引に、逃げようとするテマリの唇と、舌をしつこいくらいに追いかけてまわって、
だけど、優しい キス。


ああ、優しい あなたに 窒息しそう。


「 は・・・ 」

名残惜しそうに離れた唇は互いの唾液で艶かしく、艶めく。
シカマルのそれを見つめたまま、テマリは酸素を取り込む。

少し紅潮した頬を、シカマルはテマリの手を開放して、自分の両手で優しく包む。


「 ・・・いいのか? 私は・・・ 」


言いかけたテマリの唇をまた軽いキスでふさいで。シカマルは笑った。


「 今は、今 だろ? 」


その言葉にテマリはまた目を少し開いて、でもすぐに、翡翠色のその瞳が揺らぎそうになるのを感じて
できるだけ、笑った。


「 ―ああ 」








「 ― あー、ごほん。 」

そのわざとらしいせきに、慌ててシカマルは覆いかぶさっていた体制を椅子へもどし、テマリも同様に布団を耳まで挙げて、シカマルに背を向けた。


「 目が覚めたら知らせろといったはずだが?シカマル。 」

扉のところにはいつから立っていたのか、うれしそうにニヤニヤと笑う綱手と、後ろで少し頬をそめたシズネが立っていた。


「 ・・・五代目。すんません。」


ばつが悪そうにシカマルは顔を染め、頭をかきながら立ち上がる。それを制して、綱手はくるりと背をむける。


「 まあ、それだけできれば大丈夫か。 」

「「 !! 」」


今までのことを見られていたことに真っ赤になった二人と尚いっそう嬉しそうにニヤニヤと見つめて、
綱手はこう、言い残して去っていった。


「 でも今日は先に進むのはやめておけよ、しばらくは安静だ。 」

「 ―!! 五代目!! 」


真っ赤になって叫ぶシカマルの様子に満足しながら、はっはっはと大きな笑い声をだして廊下を歩いていく綱手を、シズネは申し訳なさそうに追っていった。


「 ・・・・ 」

余計なことを言っていった綱手のせいで気まずい雰囲気に、二人はそのままの体制のまま固まった。
しばらくしてシカマルは立ったまま頭をかいて、めんどくさそうに、でもしっかりとテマリにむけて声を発した。


「 ・・・とりあえず、傷が癒えたら甘栗でも食いにいくか 」

「 ・・・ああ、そうだな。 」


あいつらにも、礼を言いたいし。そうつけたして。


「 ・・・シカマル。 」

「 あん? 」

「 ・・・誕生日、おめでとう。 」


ああ、それ。それが欲しかった。その声で、その目で、その笑顔で。
そのセリフを聞きたかったんだ。


「 ・・・サンキュ 」


シカマルとテマリはお互いの翡翠と漆黒の瞳を合わせて 少し照れくさそうに笑いあった。







「 ・・・最近の子は進んでんなぁ・・・ 」

と窓から一部始終を見ていたシカクが漏らしたのは誰も知らない秘密である。


































…ぇと、これくらいのキスなら「微裏」マークなしでも平気…ですよ、ね…?(不安)
もう少し重たい内容だったのですが少し軽くしました。
…というかシカ誕よりテマ誕のように見えますね…;
二人とも別人になってしまった; すみません…。
ありがとうございました。シカマル、お誕生日おめでとう。

2006.9.21