【 遅刻 】 ネジテン




朝だった。

鳥の声が気持ちよく響く、少しばかり肌寒い朝。ネジは早々に家を出ていた。
今日から別の小隊に加わる任務につく。―単独任務だ。


いつものようにガイ班が利用する演習場に寄り、少し体を慣らしてから合流地に向かった。
小隊は、中忍の女が一人、男が一人、上忍一人、そして自分の4人。
メンバーと軽く挨拶をかわすと、あまりに普通の事務的会話に、ガイとリーのけたたましさを思い出す。


そうだ、今日はリーは一緒ではないのだ と思いながら移動を始めると、門のところで騒いでいる緑の男がみえた。

( ガイ班も、別任務のようだな。 )

そう思いながら、遠目で叫ぶリーに少し呆れたように声をかけるおだんご頭をみて、あ、と思う。



( テンテンも、今日は共にいかないのだ。 )


なぜだか、リーはいない、ガイもいない、という実感は
「別の小隊」という話を聞いた段階であったのに、テンテンが一緒ではない、とは思わなかった。
ガイやリーほど存在感がなく、印象が強い存在でもなかったからだと思った。でもあまりに自然に、隣にいつもいたものだから、いないとわかると急に落ち着かなくなる。


「 あら、ネジも任務? 」


門前で騒ぐ二人をとめることを諦めたテンテンはネジをみるなり、
ふと顔をほころばせ、これから?と近づく。ふわりと少しの間を空けて、近づく。


「 ああ 」

「 いーわねー、落ち着いた班で。
  私、今日は一人で先生とリーの熱をあびなくちゃならないのよー?
  本当、まいっちゃうわ 」


腕を組み、ふー、っとわざとらしくため息をつきながらネジと並ぶ。

この空間が、あまりに普通になっていたのだろうな、とネジは人事のように思った。
隊長である上忍に呼ばれ、「じゃあネジも頑張ってね。」とテンテンがたたいていった肩が、妙に重くなった。
走り去り、二人の和に加わるお団子を見守ってから、小隊の元へ向かう。





任務行動を始めると、ツーマンセルに別れ、ネジのペアは中忍のくの一だった。
彼女はテンテンと同じ暗器つかいで、みるかぎり年も近いようだった。


「 後ろ北東200mに二人 」 「 え? 」

白眼で見つけた敵を知らせると、彼女は一瞬と惑ったような驚いたような顔をしてから、
俺が白眼だと思い出したのか、「了解」と告げる。

その言葉に、反応に、”おっけーい”と嬉しそうな声がふと頭によぎる。
自分より前に出てから後ろを振り向き、武器を正面に構えるくの一をみて、
自分がふりむくと同時に自然と斜め後ろでクナイをかまえる姿を思い出す。

数が多いときには、回転の邪魔にならぬように飛びのく姿や、放った鞄をもって”お疲れ、さすがね、ネジ”と現れる笑顔を


「 ―日向上忍? 」

暗器道具をしまいながら、くの一が差し出してきた手を、思わず思い切りはねのけた。

「 なんでもない…すまない。 」


くの一はそれから何か言おうとしたが何も言わず、再び進み始めた。
その反応にも、しつこく聞いてくるおせっかいな声を、思い出してしまった。


その後、無線から連絡があり、合流して任務を無事終え、報告を済ませた。
スムーズで無駄の無い理想的な任務遂行。だというのに、何かが物足りなかった。




( 物足りない、だなどと )


思うことすら間違っているのに、なんとも味気ない任務だろう。


ここまで、当たり前だと思っていた。
あのおせっかいも、サポートも、当然のものだと思っていた。
トレーニングも、そういえば一人で行うのは久しぶりだった。

あのくの一に現れた相手を頼むことも出来たが、それすら面倒で。そんな気にもならなかった。
リーがいない状態はあまりにたやすく想像できたのに

まったく思わなかった。テンテンもそばにいない状態になるということ。
いつも側にいる、と思ったことすらなかったのに。
こんなにも彼女は当たり前にそばにいたのだということに。

気づかなかった。

今朝からずっと抜けない違和感が気持ち悪くて、ぎゅっと重い肩を握る。



「 やだ、ネジ 怪我したの?! 」



みせて、といいながらテンテンが駆け寄ってきた。
どうやらガイ班も任務が終って報告にきたところのようだった。すこしのかすり傷と、ホコリと汗のにおいがした。懐かしい、匂いがした。

うしろの方でガイとリーの叫び声が聞こえて、側で彼女の声がする。
これがこんなにも、当たり前に自分を作り上げていたのだと



「 ―もう、治った。 」

「 へ? 」


( お前が、治した。 )


いつの間にか失せた違和感に、自然と顔がほころぶと、テンテンは少し驚いて肩におかれた手に触れた。


「 本当に?ネジってばいっつもそーやってごまかして悪くなるんだから、ちゃんと… 」


こんなにも、自然に自身に触れてくる、入ってくる この存在を、急に失いたくないと思った。
強く、思った。



「 テンテン 」

「 ん? 」

「 …はやく上忍になれ 」

「 …? 」


わかってるわよ、とちょっと膨れ気味にテンテンは言う。

はやく上忍になって。はやく、はやく。
またここで、いたい。



「 リーも、すぐに上忍になるだろうな 」

「 なぁに、私はリーより遅いって言いたいわけ?? 」



膨れた面を、ますます赤くして、テンテンはすねた。
くるりと「報告しにいこ!」とリーとガイに叫ぶ後ろ姿をみながら、また肩に触れてみる。

重かった肩は、いつの間にか軽くなっていた。





( 遅れないで、ついて来い。 )




―― この空間が、俺の居場所だったんだ。

それに気づいた、午後のひとときだった。





任務で離れて初めて、テンテンの存在を意識するネジを希望。
この段階ではまだ異性として「好き」だとは無自覚であるといい。

2008.03.18