煙の向こう 一万打企画:はな様リクエスト
「 そうか、アンタが砂の使者さんだったか 」
失礼します、と火影室をでたときだった。いつもは部屋の前でまっているシカマルが、
「中忍試験のリストアップが済んでないから先に準備室にいってるわ」と言っていたので、誰もいないものだと思っていた。
背中にかけていたセンスを床に置いた形のままもちあげて、扉を開き、もう一度センスをおいて、部屋をでて一礼。そしてとびらを閉める。
そう、シカマルがいるときとは違う決まった形式の堅苦しい動作を終わらせて、顔を上げたところだった。
ひどい煙の臭いに、思わず眉間に皺をよせて口をふさぐ。里でも、木の葉でも、あまりタバコを吸う人はみなかったから、予想外の煙と臭いに思わず涙眼になる。
「 おっと、わりぃ。 」
そういうと、男はふーっと窓にむかって煙を吐いた。…どうやら吸うのをやめる気はないらしい。
こちらが迷惑しているというのに、吸うのをやめないということは、相当のヘビースモーカーだろう。
そもそも忍びが臭いの残るタバコを吸うなんて、言語道断だ。臭いですべてばれてしまう。
つまりは、それを許すだけの腕の持ち主だということ。
目が慣れてきて、わざとらしく目の前の煙を左手で仰いでみせた。すると、男はいっそう楽しそうに笑った。
「 なるほど?いのに聞いたとおり気の強そうなお嬢さんだ。 」
いの、ということはシカマルとも知り合いなのだろうか。あごにつながるヒゲが動く。
「 砂のお嬢さんだよな?何年か前の中忍試験で、うちのシカマルと対戦した… 」
うちの、ということは、血縁関係か?しかし、シカク殿ではないのだから、単なる親戚関係だろうか?
とにもかくにも別に私に用事がないのならタバコごとどこかへ消えてくれと思いながらも、シカマル、という単語に反応してしまうのが悔しい。
「 …何か、用ですか 」
「 まあそんな怖い顔すんなって。俺はー… 」
「 アスマっ 何やってんだよ 」
男の後ろからシカマルが来るのが涙眼の中でかろうじて見えた。アスマと呼ばれた男は「よー、シカマル」とタバコをくわえたまま片手を上げる。
ああ、そうかなるほど。こいつら師弟関係か。何故だかわからないけど、二人が並んだところでそう思った。
「 きれーな使者さんじゃないか。こりゃあ見送り任が楽しくもなるわなー 」
「 何言ってんだよ。それよかなんか火影様に用事じゃねえのかよ 」
「 おっと、そうだった。んじゃま、失礼 」
男はにこやかに笑顔を向けると、そのまま火影室へと入っていった。にこやかな顔をみせてきたところ申し訳ないが、私は始終眉間に皺を寄せていた。
男が見えなくなってから、ようやくかろうじて我慢していた咳を2.3回繰り返した。
「大丈夫かよ?」とシカマルが背中をさすろうとしたのを拒否して、体制を立て直す。
シカマルは床においてあった私のセンスを「重…」といいながら持ち上げて、私に渡した。
「気安く触るな」といいながら背中にしょいなおして廊下を進むと、「へーへ…めんどくせーな」といいながらシカマルも後についてきた。
「 アレがお前の師か? 」
「 ん、まあな。よくわかったな 」
「 まあ、なんとなく、な。 」
何故わかったのかはわからない。シカク殿のときはまぁ、誰が見ても親子だというくらい似ていたので説明も必要なかったが。
なんとなく、あの男とシカマルが並んだときに、本当になんとなく、似ていると思った。
いや、これからにてくるんだろう、と思った。
「 …シカマル、タバコは吸うなよ。タバコは嫌いだ。 」
「 ? 何言ってんだよ? 」
「 別に。 」
「 …変なヤツ。吸わねーよ。俺もタバコは嫌いだし 」
中忍試験準備室に2人で向かい合ってリストアップを今日中に終わらそう、と書類をまとめていた。
少し肩がこったな、と思って背をそらすと、「茶でも飲みにいくか」とシカマルが声をあげた。
あ、ん。まあ別にいいか、茶くらい。
胸が高鳴ったのに気がつかないフリをして、「そうだな」と冷静に椅子を引く。
書類もあと少しで終わるし、後は宿にもって帰って出来る範囲だし。
そう思って書類をまとめてもって出ようとすると、シカマルが不思議そうに「それどうすんだ?」と聞いてきた。
「 もう後少しだし、宿に持ち帰ってやろうかと思ってな 」
「 そりゃよろしくねーな。この部屋の外に書類を持ち出すのはちっとマズイんじゃねぇの? 」
そういって、シカマルは再び席につく。そのまま「そんなら、おわらせちまおーぜ」といって書類を再び開き始めた。
…お茶に行きたかったわけではない。べつにシカマルと一緒にお茶に行きたかったわけじゃ、ない。団子は、食べたかったけど。…甘栗も。
だけど少しだけがっかりする心に蓋をして席につく。こうなったらもう終わらせてしまおう、とやけになったときだった。
「 おー、頑張ってるか、シカマル 」
またお前か、といったように明らかにテマリの顔に不機嫌が映るのがわかった。
いや、アスマ自体が嫌というよりは、彼女はこのなれない煙が嫌いなのだろう。
すばやく口を覆って顔を背けてしまった。しかし、最初の一声で部屋に立ち込めた煙に、少し咳き込む声がする。
テマリの背中をみてアスマは「ありゃりゃ、嫌われちまったかな」と笑った。あのな、あいつの機嫌直すの大変なんだぞ…
「 ちょっと、アスマ。弟子の邪魔するのやめなさいよ 」
準備室の小さな窓のおくから紅の声がした。アスマに隠れてしまってみえないが、おそらくアスマの後ろにいるのだろう。
「 …ったくデート中ならこんなとこまでくんなよな…こっちは仕事中なんだっつの。 」
「 まぁまぁ、羨ましがるなって。どうせ少しでも一緒にいたくて長引かせてるんだろ 」
「 俺がそんなめんどくせーことすっかよ。 」
「 さー、どうかな。 」
いつも将棋してるときは考えなんて読まれたことねぇーのに、こういうときだけどんなにいつもどおり振舞ってもすっぱり言ってきやがる。ああ、もう。
「 そう思うんだったらなおさらはやくどっかいけ、って顔だな。 」
小声で言ったアスマの声に、ドキリとするのを感じた。あわててふりかえると、テマリはそっぽむいたまま仕事を続けている。
よかった、聞こえていない。
「 あのな、アスマ、 」
俺が言いかけるのも無視して、アスマはくわえていたタバコを紅先生がさしだした携帯灰皿に捨てた。
すうっと空気が軽くなる。…てかなんで紅先生がアスマのために灰皿携帯してんだか…
「 なあ、砂のお嬢さん。 」
タバコやめたから聞いてくれよ、といわんばかりにテマリに声をかける。
テマリは少しだけ薄くなった煙に、しぶしぶこちらを振り向いた。もちろん、眉間にはしわを寄せたままだが。
「 お嬢さんはやめてください。テマリです。 」
一応目上の相手には敬語を使う。こうみえてさすがは風影の娘、と思うことがあるくらい礼儀はしっかりしたやつだ。
しかしまあ、顔は不機嫌そのものなのだが。
口調と全くあわない拒絶を含んだ顔色に、アスマはお、と驚いてから、少し笑った。
「 わるい、テマリさん。この先に、甘味どころがあるだろ? 」
こくり、と?を浮かべたままテマリがうなづく。そりゃ、しってる。
いつもテマリと任務帰りによるのはその茶屋だし、というか何かと理由をつけてテマリがこの里へくるたび2人でいく。
テマリはあそこの団子が好きだし、甘栗なんてお持ち帰りしたがるくらい好きだから。今さっきだって、ちょうど行こうとしていたところだったのだし。
「 そこなー、こいつ、俺やいのがいくら誘っても行かないんだわ 」
とんでもないことを口にして、俺が「アスマっ」といいかけた時には、さっと窓から離れて新しいタバコに火をつけ始めていた。
テマリはそのまま固まっている。きっと、今、言葉の意味を理解しようとしているんだ。ヤバイぞ、ヤバい。めんどくせーことになる。
「 じゃ、お仕事頑張って、中忍くんv 」
語尾にハートマークをちらして、紅先生とともにさっていくアスマをみつめたまま、俺はテマリをふりかえることができなくなってしまった。
だって、ほら。もしも今の言葉の意味に気がついてしまったとしたら、おれはとてもじゃないがテマリを直視できなくなる。めんどくせー、ことに
「 …は、 」
テマリがゆっくり口を開く音がした。俺もゆっくりふりかえる。テマリは振り向いた俺のほうをみて、少しうつむき加減に言った。
「 はやく終わらせて、茶に、いこう。団子が、食べたい。 」
その言葉も顔も、テマリとは思えないほど動揺にあふれていて、顔が、びっくりするくらい赤くなっていたので
少なからずもあの言葉の意味に気づいたんだろう、と思うと俺まで顔に熱が集中していくのがわかった。
「 お、おう… 」
そして、もくもくと仕事を再開するのだった。
ちくしょう、アスマのやろう。
「 アスマ、弟子に将棋で勝てないからって、からかって遊ぶのやめなさいよ 」
「 あ、ばれたか。だってこれくらいだろう?アイツをからかえるネタなんて 」
あきれ気味の紅の言葉にアスマはにやりと笑ってそういった。そして、少しだけ真剣な顔になる。
「 いや、しかし。あのシカマルがアレだけ真面目に戦った相手も珍しいぞ?
んでもってシカマルのやる気を上げれる唯一の存在だと思うんだよな、彼女。 」
アスマの脳裏に、きつい顔でこちらをむいた翡翠の瞳が思い出される。ああ、きっと彼女も時々、女をみせるんだろうな。
「 何よ? 」
じっと、顔を見られていたことに気づいた紅は少し頬を染めて不機嫌そうに言った。そうそう、きっとこんな感じに。
「 いや、別に 」
ゆっくりタバコの煙を紅から遠い反対方向の空へ吐き出して、くわえなおす。
有害なタバコの煙の向こう側には、いとしい人が見えないことを祈るばかりで。
煙に綺麗な顔をしかめた他里の少女を思い出す。
それと一緒に窓から煙が彼女の方へ入らないように無意識に仰いでいた弟子の姿を思い出して、つい噴出してしまった。
あいつ将来タバコすえねぇな、きっと。
そんなこともあったな、と笑いあえるようになるには
まだ時間がかかるだろう。
空に消えていく煙をみながら、そう思った。
はな様、企画に参加ありがとうございました。シカテマ+アスマ先生です。
アスマ先生は登場させたことがなかったので、口癖とか口調とかわからなくて、
コミックとにらめっこしたんですが、結局シカクさんみたいになってしまいました。汗
シリアス一直線で書くと、アスマ先生の原作での寂しさが思い出されて、すごく暗くなってしまうので
できるだけ明るめにさらりと書き上げてみました。だけど、最後は少しだけ匂わせてみたりしました。
ちなみに、最後の言葉は誰が言ったか考えてません。勝手に紅先生登場させてすみません;
なんだか体当たりな感じでしたが、楽しかったです。ありがとうございました!
2007.01.27 ![]()